ボクシング界に現われた若きスターが、2014年はいよいよ世界に挑む。
 12月6日のOPBF東洋太平洋ライトフライ級王座決定戦、プロ5戦目の井上尚弥(大橋)はヘルソン・マンシオ(フィリピン)を終始、圧倒。5RTKOで下し、タイトルを獲得した。次戦で世界王座に挑戦し、ベルトを獲れば日本人では史上最速の世界王者となる。デビューから、まだ1年2カ月。甘いマスクとは裏腹に、リング上でみせる強さは、まさに“怪物”級だ。さらなる高みを見据える20歳に、二宮清純がインタビューした。
(写真:見た目は普通の若者だが、最近は「街中で声をかけられることが多くなった」という)
二宮: アマチュアでは高校6冠。鳴り物入りでのプロ入りでした。実際に試合をしてみてアマチュアとの違いを感じる部分はありましたか。
井上: ラウンドの長さを感じますね。デビュー戦の段階でスパーリングでは8Rやっていたんですけど、いざ試合となると緊張もするので、練習通りにはいかない。

二宮: ヘッドギアがないのは気にならなかった?
井上: 最初はとまどいました。グローブが小さいのも気になりましたね。でも、デビュー戦の2Rからは、感覚的には慣れました。

二宮: 2Rで? それはすごい。もう「世界」は視野に入っているでしょうが、理想としているチャンピオンはいますか。
井上: 特にイメージしている選手はいないですね。自分自身が周りから理想のチャンピオンと言われるような強い選手になりたいと思っています。

二宮: 世界チャンピオンになることではなく、強いチャンピンでい続けることが目標だと?
井上: そうですね。今は日本人の世界チャンピオンも多くて、単になっただけでは世間では認められない。防衛記録を伸ばしたり、誰が見ても強いと思われる勝ち方をしたいんです。

二宮: では、具志堅用高さんの日本人防衛記録13回の更新もゆくゆくは狙っていくと?
井上: はい。記録は塗り替えたいと思います。具志堅さんの試合のDVDを買って観たんですが、相手に向かっていく気持ちが今の選手とは全然違う。そういった面は見習いたいなと感じました。

二宮: ボクシングをする上で一番大切にしていることは?
井上: スピードと距離感です。今のところ、自分よりスピードのある選手はそんなにいないので、ここは強みだと思っています。距離さえ自分のものになっていれば、そんなにやられることはない。

二宮: パンチの回転も速いし、的確ですね。
井上: 回転で出す時は、まず倒すのではなく相手を混乱させたいと考えています。手数が出れば相手も焦る。その中でスキを見つけて、強いパンチを意識して打ち込むんです。

二宮: 話を聞いていると、プロでかなりのキャリアを積んだボクサーと勘違いしてしまいます(苦笑)。では、強いチャンピオンを目指す上での今後の課題は?
井上: さらにスピードを上げることと、パンチに強弱をつけることです。単に強いパンチだけでは、相手も守りやすい。強弱をつけてタイミングを外せば、よりダメージを与えられます。その打ち分けを練習から意識してやっていますね。
(写真:小さい頃から父の真吾トレーナー(右)と練習をしてきた。「父からは常に気持ちの面を言われています」)

二宮: “怪物”というニックネームは気に入っていますか。
井上: 正直、うれしくはないですね(苦笑)。ニックネームとか、そういうのはいらないんじゃないかと思っています。ただ、もう定着してしまったので、これからも“怪物”と言われ続けるようにならないといけないですね。

二宮: これから、どんなボクサーになるのか本当に楽しみです。
井上: はい。自分でも将来を楽しみにしています。

二宮: リングから離れた時は何か気分転換はするんですか。
井上: 映画をよく観に行きますね。最近は長澤まさみさん主演の「潔く柔く」が良かったです。ラブストーリーで泣きそうになっちゃいました……。

二宮: 純愛モノが好き?
井上: いや、ジャンルは問いません。ホラーも観ます。映画館の雰囲気が好きなので、時間があれば、よく行きますね。母がディズニー映画が好きなので、家にもビデオがバーッと並んでいます。

二宮: 2013年の映画で、井上尚弥が選ぶ3作をぜひ教えてください。
井上: まず「潔く柔く」は入りますね。それからジョニー・デップの「ローン・レンジャー」。「ジャックと天空の巨人」もおもしろかったです。もうレンタルショップにDVDが出ていたので借りてきて、また観ちゃいました(笑)。

<現在発売中の小学館『ビッグコミックオリジナル』(2014年1月5日号)に井上選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>