ボクシングの世界タイトルマッチが31日、東京と大阪で3試合行われ、東京・大田区総合体育館でのWBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチは王者の内山高志(ワタナベ)が同級4位の挑戦者・金子大樹(横浜光)にダウンを喫したものの、3−0で判定勝ちし、8度目の防衛を果たした。WBC世界スーパーフェザー級タイトルマッチは王者の三浦隆司(帝拳)が同級2位のダンテ・ハルドン(メキシコ)に9R55秒TKO勝利を収め、2度目の防衛に成功した。また大阪・ボディメーカーコロシアムで開催されたWBA世界ライトフライ級タイトルマッチは王者の井岡一翔(井岡)が同級3位の挑戦者フェリックス・アルバラード(ニカラグア)との打ち合いを制し、3−0の判定で3度目の防衛を達成した。
(写真:試合を優位に進めていた内山だが、10Rのダウンで一気にスリリングな展開となった)
<内山、ピンチも冷静に対処>

 リングの空気が一瞬で変わったのは10R終盤だった。
 前進する挑戦者のプレッシャーに距離感を誤り、左を2度被弾。ロープに詰まったところで右フックでアゴを打ち抜かれた。

 腰から崩れ落ちる王者。約3年ぶりのダウン。まさかの大番狂わせを思わせる展開に会場内はヒートアップする。

「歓声がすごいなと思いましたね」
 そう振り返ったのはダウンを奪った金子ではない。倒れた内山だ。苦笑いしながらロープに手をかけた王者は大ピンチにも冷静だった。
「カウントは耳に入っていました。8まで聞こうと思ったのですが、レフェリーに(パンチが)効いていると思われたらいけないので7で立ったんです」
 
 立った時に足元はふらつかなかった。さほどダメージがないことをチェックすると、瞬時に対処法を考えた。
「絶対に(パンチを)振って出てくるので、一発目をかわせれば大丈夫」
 一気呵成に拳を繰り出す金子のパンチを頭を下げて避け、このラウンドを乗り切る。

 そして11R、今度は反撃に転じた。挑戦者の猛攻を足を使ってかわすと、カウンターの左でぐらつかせる。ワンツーをヒットさせ、ロープに追い込んで連打を浴びせ、主導権を取り戻した。丸4年、世界のベルトを守ってきたキャリアが為せる業だった。

「考えていた通りのボクシングができた。3Rでペースがとれると思いました」
 試合後に内山が語ったようにダウンシーン以外は、25歳の挑戦者を寄せ付けなかった。世界初挑戦でアグレッシブに攻めてくる金子と適度に距離をとりながら応戦し、左のジャブ、ショートフックを的確に当てた。
(写真:「ジャブが思ったより当たった」という内山にジャッジは3人とも7ポイント差をつけて支持した)

 金子は右目上をカットし、鼻からも出血。内山はリーチで上回る相手のジャブを受ける場面もありながら、顔はきれいなままだった。あとは得意の右がいつ炸裂するか。中盤以降は何度もワンツーをみせ、そのタイミングをはかっているように映った。

 それでも「合わせて倒れるだろう」との王者の見込みが外れ、世界戦では負傷判定を除いて初めてKOに持ち込めなかった。これは金子の健闘だ。被弾してもひるまず、前に出続け、一瞬のスキを突いて見せ場をつくった。
「強かった。ザ・男という感じだった。世界チャンピオンは僕のものだが、いい経験をさせてもらった」
 勝った内山も敗者を称え、「1年、2年、3年後が楽しみ」と将来の再戦の可能性も示唆した。

 その前にはWBC王者・三浦との王座統一戦や、海外進出の話もある。8度の防衛は日本人では史上4位タイ。勢いのある若手を退け、名実ともに日本ボクシング界の顔として2014年も君臨し続ける。

<三浦、統一戦へ大きく前進>

 最後は半ば強引に決めに行った。挑戦者をロープに詰め、左右のフックを見舞うとハルドンはマウスピースごと吹っ飛んだ。
「もうちょっと早く倒せる場面があった。そこは未熟な部分なので、これから直していきたい」
 文句なしの完勝も、三浦は単なる通過点と言わんばかりの表情だった。
(写真:得意の左だけでなく、「右のフックをよく当てられた」と振り返る)

 挑戦者は24勝中20KOのハードパンチャー。しかし、身長173センチの胴長体型ゆえボディにスキがあることを三浦陣営は見抜いていた。低い体勢からボディを突きあげ、挑戦者の体力を削り取る。ハルドンも応戦するが、王者はヒザをうまく使って上体を柔らかく使い、クリーンヒットを許さない。

「試合中にひざを使ってムービングするのは体力的にはかなりきつい。でも、相手は体が浮いた瞬間を一発狙っていたので、それだけは徹底しました。あれができたから、いいディフェンスといい攻撃につなげられましたね」
 セコンドについた葛西裕一トレーナーはそう解説する。王者になる前は一直線に戦いを挑む傾向の強かった三浦が巧さも兼ね備えれば、その強さは倍増する。

 次第に三浦がプレッシャーを強めると、5Rにはロープ際の連打でダウン。ダメージの大きい挑戦者は足元がぐらつき、以降は何度もリング上でスリップした。8Rには三浦がパンチをまとめ、ハルドンをマットに這いつくばらせたように映ったが、レフェリーはスリップの判定。場内からはブーイングが起こった。8R終了時点での公開採点では王者がフルマークの大差をつけ、決着は時間の問題だった。

 2013年は4月に初の世界ベルトを獲得すると、8月には敵地メキシコでランキング1位のセルヒオ・トンプソンを退け、初防衛に成功した。そして、最後はKO締め。「ボクサーとして充実した1年だった」と振り返る。

 新しい年の目標を訊かれ、「これ以上の1年になるように」と答えると、葛西トレーナーから「勝ったんだから、はっきり言えよ」と促された。そして「統一戦」と口をした。WBA王者の内山は因縁の相手だ。3年前に挑戦者として拳を交え、序盤にダウンを奪いながらも、左ジャブの連打で右目の視界を奪われてTKO負けを喫した。今度は王者同士で雌雄を決する番だ。

「まだ最後の奥の手は出さずに終わった。内山戦にとっておく」と葛西トレーナーは不敵に笑う。再戦の機は熟した。

(石田洋之)