19日、卓球の全日本選手権最終日が行われ、男子シングルスは水谷隼(DIOジャパン)が町飛鳥(明治大)を4−1で下し、天皇杯を3年ぶりに獲得した。これにより水谷は4月に東京で行われる世界選手権団体の代表に内定した。女子ダブルスは平野早矢香(ミキハウス)、石川佳純(全農)組が中川博子、土田美佳(中国電力)組にストレート勝ちし、5年ぶり2度目の優勝。石川は前日に優勝した同シングルスと合わせて、今大会2冠を達成した。世界選手権の代表の残り男女各2名については21日に発表される。
【王座奪還、復活のエース】

 悔しさをバネに、再び王座に返り咲いた。水谷は過去2年決勝で、高校生に敗れていた。今大会の決勝は、準決勝で2度の優勝を誇る吉田海偉(DIOジャパン)を下し、勢いに乗る19歳の町と対戦した。昨晩は決勝で敗れる“悪夢”を2度も見たという。体調も万全ではなく、不安を抱えたままでの決勝だったが、プレシャーにも打ち克ち、見事に天皇杯を手にした。

「全日本に勝つのは苦しい」。全日本6度目の優勝は、歴代2位に並ぶものだ。8年連続で決勝を経験している水谷でさえ、このタイトルは簡単なものではないという。今大会は優勝候補に挙げられていた有力選手が次々と消えていく中、しっかりと結果を残すあたりは流石である。

 水谷は序盤、町の“チキータ”(バックハンドの変化球)に「対応できなかった」と苦労したが、第1ゲームを11−8で取った。第2、3ゲームをいずれも11−4で取り、第4ゲームに入った。しかし、このゲームは逆に4−11で落としてしまう。それでも容易く天皇杯は獲れないと織り込み済みだったのだろう。第5ゲームは中盤に7連続得点をするなど、一気に突き放し、マッチポイント。2点を返されたが、そのまま流れを譲らす、11−5で試合を締めた。

 昨年からヨーロッパチャンピオンズリーグ、ロシアリーグに参戦し、ヨーロッパの舞台で腕を磨いてきた。11月からは、ドイツ1部リーグのフリッケンハオゼンの監督であるキュウ・ケンシンと新たにコーチ契約を結ぶなど、環境面は大きく変わった。特にバックハンドのパワーアップは著しく、本人も「つなぎのボールとなることが多かったが、一発で打ち抜けるようになった」と、大きな武器となっている。

 松平健太(早稲田大)、岸川聖也(ファースト)に次ぐ、3人目の世界選手権代表に決まった。自国開催となる世界選手権について、こう抱負を語った。「自分が現役でいる間、日本でやることは最後。金メダルを目指して頑張ります」。当然、日本の金メダルへの障壁は圧倒的強さを誇る中国だが、24歳のエースは「自分の調子が良ければ中国に勝てる」と豪語した。

【ロンドン五輪団体銀ペア、盤石の勝利】

 女子ダブルスは、平野と石川のロンドン五輪団体でもダブルスを組み、銀メダル獲得に大きく貢献した2人が圧勝した。ファイナルゲームまでもつれた5回戦以外は、すべてストレート勝ち。決勝でも息のあったコンビネーションを見せ、相手に付け入るスキをほとんど与えなかった。

 全日本を初めて制したのは、石川が中学1年生の時。「何回ミスしても“いいよ”と声をかけてくれた」と平野が支えた。今大会でも「心強いアドバイスをくれて、私は何も考えずに打つだけだった」と、石川は平野に感謝した。平野は「小さい頃から思い切りがいい。私も沢山勉強させてもらった」とお互いに刺激し合い、成長できたという。

 平野が「プレーも性格も知っていて、自然に分かる部分が大きい」とペアの強みを語れば、石川は「何も言わなくてもこうしようとプレーができる。すごくノビノビできた」と平野の存在の大きさを口にした。

 これまで数々の大会でダブルスを組んできた2人。今後の可能性について、平野はこう話す。「面白いペアだと思う。(石川は)思い切りが良くて何でも対応できるので、やりやすい」。一方の石川も「ダブルスはオリンピックでも大切。強くなってリオを目標に平野さんと頑張っていきたい」と共闘を誓った。

【藤井寛子、現役引退。指導者へ】

 5連覇のかかる藤井寛子、若宮三紗子(日本生命)組は準々決勝で中川、土田組に3−4で敗れた。藤井寛子は今大会限りでの引退を決めており、現役最後の大会を有終の美で飾れなかった。

 若宮は「あまり意識しないようにしていたが、プレーに出てた」と、1本1本に必死になり過ぎてコートが見えてなかったという。藤井も同様に精神面で余裕がなかったと語る。「(私たちは)いい時は平常心。今回は気持ちの起伏が激しく目の前のことばかりで大きな気持ちで入れなかった」

 若宮が日本生命に入社した2007年からペアを組む2人。「パートナーとしてだけでなく、チームのキャプテン、エースとして模範となっていた。すごく勉強になり、頼りになる存在でした」。7歳下の後輩は、現役を退く先輩を思い涙を流した。一方の藤井は若宮を「かけがえのない存在」と言い、感謝をした。そして「これから強くなっていかなければいけない選手」とエールを送った。

 藤井は「小学校の時は弱い選手。まわりの方に恵まれて卓球を好きで24年間やってこれた」と、これまでの卓球人生を振り返った。ロンドン五輪ではバックアップメンバーとして、団体戦銀メダル獲得に陰ながら貢献した。全日本ではシングルス3度の準優勝。昨年は社会人4大会で優勝するなど、やり切った思いもあった。だが、集大成にと臨んだ今大会はシングルスで初戦敗退、ダブルスでも5連覇を逃し、「すっきりしない」と悔しがった。

 第一線を走り続けてきた藤井の現役生活はここで一区切り、次は指導者として新たな道を歩む意向だ。「子供たちに卓球の楽しさを、トップ選手には自分の経験を伝えたい」と、その思いを語る。プレーヤーとして、日本卓球界を支えてきた藤井。経験豊富であり、人格者として知られる彼女は、ジュニアの育成やトップ選手の強化は適任かもしれない。指導者としての今後が楽しみである。

(文・写真/杉浦泰介)