白鷗大学のバスケットボール部3年の軸丸ひかるは関東女子大学バスケットボール界において、注目のポイントガードだ。

 

<2018年7月の原稿を再掲載しています>

 

 ポイントガードはチームの司令塔的な役割を担う。パスで攻撃を組み立てて、得点をアシストする。ある場面では、ドリブルで切れ込んで相手の守備網をかき乱し、マークを引き付ける。隙あらば自らがシュートを放つ。司令塔の出来がチームの勝敗を大きく左右する。パス、ドリブル、シュートといった能力を求められるが、2手3手先を読む頭脳も要求されるポジションと言ってもいいだろう。

 

 加えてスピードアップ、ダウンとゲームのペースメーカー的な役割も任される。優秀なポイントガードがいればチームの勝率は格段に上がるのだ。日本人初NBAプレーヤーの田臥勇太は「ポイントガードはチームを勝たせるのが仕事」と語る。

 

 軸丸はU-18日本代表に選出された経歴がある。現在では日本女子学生選抜チームに選出されている実力者だ。軸丸は総合力の高いポイントガードだ。彼女に自らの長所を聞くと少し悩みながらも、こう返ってきた。

「私はどれもボチボチできるのが長所ですかね。特に“これだ”という特化したものはないです(笑)。総合的になんでもできるのが強みですかね」

 

 メッセージ付きのパスを出せる選手

 

 初めて軸丸を見た時、そのプレーにひきつけられた。彼女のパスには意図があるように感じた。パスの送り先の選手には「次はこういうプレーをしてほしい」というメッセージをこめている。受け手のプレッシャーを軽減させるために繰り出すノールック気味のパスも観る者を楽しませてくれる。

 

 パスを出すふりをしておきながら、持ち前のスピードを活かしてゴール前に切れ込んでいくプレーにも迫力を感じる。そしてシュートを打つふりをしてフリーの味方に打たせるあたりには良い意味で“憎たらしさ”さえ感じる。軸丸の策士的な一面にワクワクさせられる。

 

 その軸丸が自分の武器に総合力の高さをあげたあと、しばらくの沈黙をおいて「でも周囲の人からは、スピードが私の長所と言われます」と口にした。

 

 今年5月に行われた李相伯盃日韓バスケットボール競技大会の日本対韓国戦。彼女はドライブで相手DF陣を切り裂いていた。聖カタリナ女子高校時代の映像を見てもスピードを生かしたプレーは目をひくものがあった。正直、意外だった。何よりも先に「武器はスピード」と言うものかと思っていた。ところが、そうではなかった。

 

 これには軸丸なりの理由がある。大学1年生の時、左足の靭帯を切ってしまったのだ。「なんて言えば、良いのだろう……。自分では今は、“スピードが武器”とは言えないですね」と彼女は言う。こればかりは本人しかわからない領域だ。それほど、高校時代の彼女の体はキレていた証左でもある。

 

 客観的に見て、今でも彼女のスピードは立派な武器である。それでも 軸丸が「周囲の人からは」と付け加えるあたりに自らに課すハードルの高さが感じられる。

 

 また、言葉をひとつひとつ慎重に、そして照れくさそうに答える様子に彼女の人間味がにじみ出ていた。コートの中ではパス1本、ドリブルひとつで相手を混乱に陥れる小悪魔。ひとたびコートを離れると謙虚な若者。2つの顔を持つ彼女は愛媛という地で、どのように育ってきたのだろうか――。

 

第2回につづく

 

軸丸ひかる(じくまる・ひかる)プロフィール>

1997年11月26日、愛媛県四国中央市生まれ。小学1年からミニバスケットボールを始める。川之江南ミニバスケットボールクラブ-四国中央市立川之江南中学-聖カタリナ女子高校(現聖カタリナ学園高校)。ポイントガード。オフェンス、ディフェンスともに総合力の高さが売りのプレーヤー。聖カタリナでは2年時からレギュラーの座を掴む。2014年度のインターハイとウィンターカップでチームを3位に導いた。高校時代には年代別の日本代表にも選出された。白鴎大学バスケットボール部入部後、レギュラーとして活躍。身長167センチ。

 

(文・写真/大木雄貴)

 


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