「オーバーに聞こえるかもしれませんが、運命ですね。僕が宿舎の前で座っていた時に、“誰か良い子通らないかな”と思っていたら、ちょうど僕の目の前を通ったのが秋山だったんです」

 そう秋山大地との出会いを振り返るのは、帝京大学ラグビー部の岩出雅之監督だ。2013年、長野・菅平での合宿中、秋山が高校2年の夏だった。

 

愛媛新聞社

 

 

 

 

 5年前の時点で岩出監督は秋山の存在を知らなかった。当時は190cm近い身長。恵まれた体躯が岩出監督の目に留まったのである。「身体の大きさがまず魅力。他の部分はあってもなくても育てればいいですから」。指導して技術や体力をトレーニングで伸ばすことはできても、身長までは伸ばすことはできないからだ。

 

「『どこの選手?』と聞くと『貞光工業(現つるぎ)』だという。実は貞光とは縁があって、 大学の同級生には貞光出身で、後にOB会長になられた人がいたんです。 前任の学校では合宿で貞光と一緒に練習したこともありました」

 軽い世間話をして、初めてコンタクトは終わった。岩出監督はその時を思い出しながら「僕の中では良い出会いだから、ついているなと思います」と微笑んだ。

 

 先輩が後輩を助ける風土

 

 秋山自身は帝京大の練習見学にも行った。まず部員の意識の高さに驚かされた。

「練習での緊張感や部員の集中力が全然違いました。中弛みするようなことは一切なく部員は約140人もいるのに誰1人として集中を欠いている人はいない。全員が監督や、しゃべる人をまっすぐ見ていました」

 

 名門校や強豪校の出身でなくても、才能が花開く土壌にも惹かれていた。一方で全国大学選手権大会連覇中の強豪に入る不安も少なからずあった。

「(期待と不安は)両方ありました。強いチームについていけるかなと。でも、ここでやればなりたい自分に近付けると思えたんです」

 大学への進学はほぼ迷わなかった。早い段階で帝京大一本に絞った。

 

 生まれ育った徳島県から上京し、寮生活がスタートした。今や大学ラグビー界を牽引する強豪校となった帝京大。そこに至るまでに培われた風土があった。

「もちろん練習は厳しいのですが、下級生もついてこられるようにペースも考えられている。そしてそれをサポートしてくれる先輩方もいました」

 

 帝京大ラグビー部は一般的な体育会系とは違い、上級生が雑務を行うのが特徴だ。寮は3人部屋で先輩2人と暮らす。「すごく優しくて、困ったことがあればすぐに話を聞いてくれました」と秋山。精神的に救われたことも多かったという。

 

 秋山は1年目にして関東大学対抗戦Aグループで公式戦デビューを果たす。開幕節の青山学院大学戦でのベンチ入りはなかったが、第2節の立教大学戦で、その時は訪れた。スタメン15人の中に秋山が選ばれたのだ。ここでも先輩が彼に手を差し伸べる。明らかに緊張している秋山に松田力也(現パナソニック ワイルドナイツ)が声を掛けた。

 

「松田さんには『緊張してるの? オレもしてるよ』と言われました」。1年から主力として試合に出ている松田でさえ、緊張しているのだからと気持ちは楽になった。秋山はのびのびとプレーでき、後半途中に退くまでの45分間ピッチを駆け回った。

 

 対抗戦は慶應義塾大学、早稲田大学戦にも出場した。Bチーム中心の関東大学ジュニア選手権では6試合4試合で起用された。大学選手権での出番はなかったが、まずまずのルーキーシーズンと言えるだろう。

 

 伸び悩んだ2016年度

 

 だが16年度のシーズンは順風満帆とはいかなかった。秋山は2年生になると、伸び悩む。夏合宿はAチームでスタートしたが「全然うまくいかなかった」とアピールできず、Bチームに降格にしてしまう。その後は対抗戦、大学選手権のベンチ入りメンバーに呼ばれることはなかった。

 

 同じポジションには姫野和樹(現トヨタ自動車ヴェルブリッツ)、飯野晃司(現サントリーサンゴリアス)、金嶺志(現NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)ら上級生が定位置を争っていた。

「今振り返れば、その先輩たちにチャレンジする気持ちが弱かったのかもしれません。なかなかコツコツやっていても成長が実感できない期間でした」

 

 このシーズンは「苦しい、悔しい気持ちでいっぱいだった」という。

「1年生の時は出られたのに2年生になって出られなくなった。試合に出ることだけがすべてではないですが、“自分は何をやってるんだ”“何のためにこの大学に入ったんだ”と。すごく腹立たしく、情けなく感じていました」

 

 岩出監督は当時を振り返る。

「入ってきてすぐ“これは時間がかかるな”と感じました。秋山は生真面目な選手だから挑戦心が高い。目標設定が高いから、それに自分の能力が見合っていないと不安になってしまう。僕らは悩まなくてもいいと思うことも悩んでしまうんです。でも時間がかかるとしても、彼の真面目さは僕らがつくれるものではない。それは秋山が持つ資質ですから。お尻を叩くような必要もないですし、本人の挑戦心に見合うスキルとイメージができあがれば、一気に覚醒できるんです」

 

 帝京大はこのシーズンで対抗戦6連覇、大学選手権8連覇と記録を伸ばした。4年生は卒業し、新チームとなる。

「自分の中で勝負の年と位置付けていました。ここで試合に出られなかったら同じポジションに同級生がたくさんいたので、4年生になっても試合に出られないと思ったんです」

 17年春、危機感を持った秋山にとって勝負のシーズンが始まろうとしていた――。

 

(最終回につづく)

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秋山大地(あきやま・だいち)プロフィール>

1996年11月14日、徳島県阿波市生まれ。小中学生は野球部に所属し、高校からラグビーを始めた。ポジションはロック。貞光工業(現つるぎ)高では1年時に花園出場。3年時にはキャプテンを務め、高校日本代表にも選ばれた。帝京大進学後は1年時に公式戦出場。3年時にレギュラーの座を掴み、関東大学対抗戦7連覇と全国大学選手権9連覇に貢献した。今年度から主将を務める。身長192cm、体重110kg。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

 

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