秋山大地(帝京大学ラグビー部/徳島県阿波市出身)最終回「大地に根を張る大黒柱」
2017年度のシーズンを帝京大学ラグビー部3年の秋山大地は「勝負の年」と位置付けていた。公式戦の出場機会がなかった2年時も、ただ指をくわえて仲間たちの活躍を見ていたわけではない。ウエイトトレーニング、食事面を見直し、身体づくりに精力的に取り組んだ。1年間で体重は6、7kg増えていた。
しかし、春からAチームにいたものの、月日を重ねてもなかなか波に乗れない。ベンチを外れることもあり、定位置を掴み切れずにいた。精神的に落ち込むこともあった。そんな時、「人生で必要のないことは起こらない」と諭してくれたのが、1学年上のキャプテン堀越康介(現サントリーサンゴリアス)だった。
秋山が述懐する。
「堀越さんとはいろいろ話をしました。堀越さんに『自分に起こることは全部、今の自分に必要なこと。将来成長したり、自分が幸せになるために起こっていることだから、今は自分がやるべきことを一生懸命頑張れば、それに見合う結果がついてくるよ』とアドバイスをいただいたんです」
夏を越えて秋を迎えると大学ラグビーのシーズンが到来する。関東大学対抗戦グループA開幕節の成蹊大学戦。秋山はスタメン入り、2年ぶりに対抗戦への出場を果たした。フル出場で2トライの活躍。70-0の大勝に貢献した。
しかし第2節の日本体育大学戦はベンチ外。続く青山学院大学戦はリザーブ入りするもピッチに立つことはなかった。早稲田大学戦はスタメンで途中交代。慶應義塾大学戦は途中出場だった。チームが連勝街道をひた走る中、その流れに乗り切れずにいた。
迷いが吹っ切れた明大戦
「危機感を持ちながら過ごしていく中で、少しずつプレーで掴み始めたものがありました」
秋山がそう振り返るのが11月18日の対抗戦、明治大学戦だった。5連勝中の帝京大は4勝1敗の明大に勝てば最終節を残し、優勝が決まる。秋山は雨のニッパツ三ツ沢球技場での重要な一戦に2試合ぶりにスタメン出場を果たした。前々節の早大戦では「全然思い切りが良くなかった」と納得するプレーができぬまま途中で退いた。続く慶大戦はプレータイムこそ短かったが、そのわずかなプレーで光を見出していた。
「それまでは身体は大きいのに思い切りのいいプレーができなかった。明治さんとの試合はそうではなく、ゲインすることができました。プレーでの良い感覚を掴めたような気がします。自分の力にもっと自信を持っていいんだと思えるようなりました」
完全に霧は晴れ、視野は開けた。チームも41-14で快勝。6連勝で対抗戦7連続8度目の優勝を決めた。
岩出雅之監督も「これは完全に本物になったなと思いました」と認めるプレーぶりだった。明治戦以降は背番号5、つまりロック(LO)でレギュラーを完全に確保した。全国大学選手権に入ってからも試合に出続けた。
大学選手権の出場は初めてだった。トーナメント方式となり、ここからは1つも落とせない緊迫感がある。
「自分が出ているポジションで出たい選手がいる。それは自分が1、2年生の時に経験し、わかったことです。だから4年生にも同じポジションの方がいたので、“自分が不安を抱えたまま、緊張でいいプレーができないではダメ。そんなことは失礼だ”と思い切ってやろうと思って臨みました」
覚醒した大器はその後も活躍を続けた。準決勝の東海大学戦は攻守に渡って勝利に貢献。決勝の明大戦では一時は13点のビハインドを許したが、後半15分に追撃のトライを挙げた。
「点差が開く場面はありましたが、やることは変わらなかった。そういう時こそ、自分のやるべきことはシンプル化される。自分の場合は身体を当て続けること。あまり余計なことは考えずプレーに集中できました」
21-20で明大に逆転勝ち。帝京大の大学選手権での連覇は9にまで伸びた。秋山たちの学年が目指す節目のV10へ、あと1つとした。
順調ではない船出
最上級生として迎える2018年度のシーズンはキャプテンという重責も担うことになった。試合が始まれば、プレーのあらゆる決定権を持つ。試合中、レフェリーはキャプテンと主にコミュニケーションを取る。チームメイトを集め、レフェリーの意向を伝えるのも役割。“現場の指揮官”と言うべき存在だ。岩出監督は「もうひと回り、ふた回りも成長できるチャンス」と期待を寄せる。
「大きく目指しているものがあって、それに達していない時はだいたい原因がある。その原因を何個かのポイントに分けて、“ここのポイントがうまくいっていないからだ”ということが分かるようになってきました」
だからといって、すべてを1人で背負うとしているわけではない。信頼できる副キャプテンたちが彼をサポートする。
「竹山(晃暉)とブロディ(・マクカラカン)が、すごくゲーム理解に長けているところがあるので、ゲーム中は特に助けてくれます。自分も春先に比べると足りないですが、分かり出してきた。“今はここがダメだからこうした方がいい”という感覚を掴みだせていますし、自分の足りない部分は2人が補ってくれています」
1年時から主力で活躍した竹山とブロディらと中心となってチームビルディングを進めている。
岩出監督からは「挑戦心が高く、目標設定が高い」と評される秋山。飽くなき向上心がこれまでの成長を支えていると言ってもいい。だから秋山は「自分の中で満足がない」と語り、こう続ける。
「はっきりここが成長したかどうかというのは正直分からない。逆に、それも大事かなとも思っています。自分の成長が止まった時点で、チームの成長も止まる。キャプテンになったばかりの頃と比べると声掛けなど掴めた部分もあるのですが、まだまだ自分が思っていることを明確に相手へ伝えられる言葉能力は全然足りていないと思います」
今シーズンの帝京大は春季大会で明大に敗れ、公式戦で2年ぶりの黒星を喫した。
「新チームが始まってのファーストゲームだったので、チームの試合に対する気持ち的な部分は悪くなかった。全員に戦う気持ちはありましたが、チームとしての基本的な部分はまだできていませんでした。試合までの準備という点で明治さんの方が上だったのかもしれません」
本番は秋。そう捉えることもできるが、船頭として良い船出を切れなかったことに悔しさがないはずがない。明大には夏合宿での練習試合でも負けた。対抗戦、大学選手権のライバルと目される相手に前哨戦での痛い“連敗”だ。逆に言えば、ここから巻き返すための舵取りが秋山には必要となってくる。対抗戦は9月中旬からスタートする。
ロックらしいロックへ
また来年は日本開催のラグビーW杯が控えている。今年5月に発表されたジャパンの第1次スコッドに秋山大地の名はなかった。ここまで高校日本代表、ジュニアジャパンなど世代別の代表に入ったことはあるが、ジャパンでのキャップ数はゼロだ。
「現実的に考えてスコッドにも入っていないですし、正直2019年のワールドカップは厳しいと思っています。でも、長い目で見ると日本開催っていうのはすごく特別なもの。だから諦めてはいません。そして次の2023年のワールドカップもしっかり見据えて目指したい」
一方で、岩出監督は将来性を含めて「僕は代表に入れてもいいと思う」と言うほど秋山の実力を高く評価しているのである。そして更なる成長も求めている。
「フィジカルにしてもスキルにしてもマインドコントロールにしても、世界で戦おうと思ったら、もっとタフでもっと正確で心身ともにプレーの激しさをキャラクターにしなくてはいけないと思います。世界を舞台にしても周りが頼もしく感じる存在になることです。例えば姫野(和樹、トヨタ自動車ヴェルブリッツ)はそういうポテンシャルを持っていたから、日本代表でも主力になってきているのだと思います。でも姫野には姫野の、秋山には秋山の良いところがある。秋山のそれは力強さ。日本で最高に力強いプレーヤーを目指してほしい」
秋山が思い描く理想像はこうだ。
「LOらしいLOになりたいです。泥臭くて目立たなくても、チームにコイツは欠かせないと思われるような仕事ができるLOになりたいです」
LOはラグビー王国のニュージーランドでは子供が最も憧れるポジションだと言われている。日本を代表するLO大野均(東芝ブレイブルーパス)は「気持ちの強いLOがいるチームは強い」と話していた。岩出監督も「フォワードの柱。家の柱みたいなもので、そこが弱いと頑丈なものは建たない。逞しさが求められる」と口にする。
深紅の王者にとっての大黒柱・秋山が、大地に根を張り、力強くピッチにそびえ立つ。時には敵の攻撃を塞ぐ壁となり、時には敵陣を突き破る重戦車になる。背番号5の攻守に渡る貢献が、キャプテンとしてのリーダーシップが対抗戦8連覇、そして大学選手権で節目の10連覇に懸かっている。
(おわり)
1996年11月14日、徳島県阿波市生まれ。小中学生は野球部に所属し、高校からラグビーを始めた。ポジションはロック。貞光工業(現つるぎ)高では1年時に花園出場。3年時にはキャプテンを務め、高校日本代表にも選ばれた。帝京大進学後は1年時に公式戦出場。3年時にレギュラーの座を掴み、関東大学対抗戦7連覇と全国大学選手権9連覇に貢献した。今年度から主将を務める。身長192cm、体重110kg。
(文・写真/杉浦泰介)
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