水球の日本学生選手権水泳競技大会(インカレ)女子4連覇を達成した秀明大学。決勝でただ1人フル出場したのが、坂上千明(4年)だった。水球は1ピリオド8分、第4ピリオドまで合わせると1試合32分で行われる。攻守の切り替えが早く、豊富な運動量を求められるスポーツ。“水中の格闘技”と呼ばれるタフな競技ゆえに、坂上の凄さが窺い知れる。

 

愛媛新聞社

 

 

 

 

 坂上が“ガス欠”を起こすことは滅多にない。本人も試合中にバテた思い出は「記憶にない」という。日本代表前監督で、秀明大水球部の創部元年から指揮を執る加藤英雄監督の証言がそれを裏付ける。

「代表で国際大会などを戦っても、気が付くと4ピリオドフルに出ている。水球はハードですから、身体の大きい相手と戦うことで消耗しバテてきます。点が入った時などプレーが切れるタイミングに選手が手を挙げてベンチにサインを送ってきたり、こちら(監督側)から見て少し動きが鈍いなと感じたら交代する。彼女にはそれがない。だから、終わってみるとフル出場していることがほとんどなんです」

 それだけ替えの利かない選手だということだ。指揮官にとって、これほど有り難い存在もいないだろう。

 

 プレーイングタイムを求めるのは選手としては当然の感情とも言える。だが坂上はあくまでもフォア・ザ・チームの精神だ。

「私自身はチームに貢献したいと思っています。フル出場するかしないかは監督の判断ではありますが、それがチームにとってプラスになるのであれば、できるだけ試合に出ていたいですね。その時間はチームメイトも休めるわけですから」

 

 持ち味はスピードとスタミナ。坂上は「泳ぐのが得意でそこは海外の選手にも通用する部分だと思います。たとえ試合の序盤はスピードで負けていたとしても、終盤になっても同じスピードで泳げるので、勝負できるんです」と口にする。

 

 加藤監督は彼女の最大の武器を「アジリティーですね」と答え、称賛を惜しまない。

「水中でも俊敏に動ける。たとえば100mを競泳と同じように壁を蹴ってターンすると、彼女と同じくらいの速さで泳げる子はいます。ただ壁を蹴るターンのない場合は一気に差が出るんです」

 水球のコートはレーンで仕切られおり、壁を蹴って反動を付けることはできない。攻守の切り替えが早い競技のため、単純な泳力だけではなくリアクションスピードや判断の速さが必要となる。

 

 カウンター水球の申し子

 

 再び加藤監督。

「センスもピカイチ。坂上の良さは判断の速さにもある。彼女は例えばアメリカ代表を相手に1対0のノーマーク(GKと1対1の状況)をつくり出せる。これを国際大会でもできるんだから、並大抵のことではない。ディフェンスに回っている時はどうしてもボールの場所や危険なエリアに意識が集中しがちです。でも坂上は先のプレーを予測しているから一歩先へ抜け出せる。それは教えてできることではないです」

 

 秀明大は加藤監督が追求するカウンターアタックが武器。指揮官が「全員エース」を掲げる“全員水球”で勝負する。アジリティーに長け、スタミナもあるオールラウンダーの坂上はその申し子とも言うべき存在だ。

「例えば、ウチが得意とするカウンターアタックで相手より先に飛び出しても、追いつかれてしまう選手がいる。でも坂上は一気にポンと飛び出せれば海外の選手でもなかなか追いつくことはできません。しかもそのスピードが試合中に落ちない。持久力が並外れているんです」

 

“落ちないスピード”。加藤監督によれば、オリンピック2連覇中の強豪・アメリカ代表のトレーニングを用いた時があったという。200mを10秒のインタバールで10本泳ぐメニュー。坂上が叩き出した1本の平均タイムはアメリカ代表のトップ選手と比べても遜色のないものだったのだ。このズバ抜けた安定感が、彼女を替えの利かない選手たる所以である。

 

 坂上は3歳上の兄の影響で小学2年から水球を始めた。今では日本代表の守備の要に成長した。彼女の持ち味はスピードとスタミナだけではない。ディフェンスにおける読みの鋭さは、中学生時の経験で培ったものだった――。

 

(第2回につづく)

 

坂上千明(さかのうえ・ちあき)プロフィール>

1996年6月5日、高知県高知市生まれ。小学2年から水球を始める。中学生時には長身を生かし、バレーボール部に所属した。幕張総合高に進学すると、水球を再開。ユースの日本代表に選出された。秀明大学ではインカレ4連覇、日本選手権の実質2連覇(1度目は秀明大を中心とした秀明水球クラブ)達成に貢献した。15年に日本代表デビュー。以降、守備の要として活躍。17年のユニバーシアード大会銅メダル、今年のアジア競技大会銅メダル獲得に貢献した。身長165cm。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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