この夏は例年以上に高校野球が盛り上がりました。100回記念大会という節目の年に相応しく話題も豊富で、そして将来への課題も見つかりました。次の100年へつなげるために活発な意見交換や議論が関係者の間で行われることを期待します。ともあれ、グラウンドでは素晴らしい戦いばかりでした。全球児に拍手を送りたい気持ちです。

 

 球数制限とその先の対策

 今年は多くの高校のメンバーに1年生、2年生がいて、しかもレベルが高くて驚きました。創志学園(岡山)の西純矢投手、星稜(石川)の奥川恭伸投手、日大三(西東京)の井上広輝投手、興南(沖縄)の宮城大弥投手などの名前がすらすらと出てきます。下級生が甲子園のベンチに入れるのはスカウティング、そして指導力がアップしたのが要因でしょう。終わったばかりですが、今から来年の甲子園が楽しみですよ(笑)。

 

 そしてこの夏はなんといっても金足農(秋田)の躍進が注目を集めました。私立強豪校の越境入学を否定するわけではありませんが、やはり地元の選手が地元の学校から出場するのが甲子園の原点なんだなと改めて思いました。私も公立校(松山商)の出身ですから、同じ公立の金足農の活躍はうれしい限りです。

 

 秋田県は数年前から県全体で高校野球強化プロジェクトに取り組んできたといいます。県外から強豪校の指導者を招いて講習会を実施したり、甲子園出場校のノウハウを県内の高校全体で共有するなど。その成果が今回の金足農の準優勝につながったんでしょう。少年野球からの球友が同じ学校に入り甲子園に出場する--。100回という節目の大会でいいものを見させてもらったと思っています。

 

 また今年は酷暑が心配されましたが、大きなアクシデントもなく無事に終了しました。「酷暑だ、猛暑だ」と大会前から言われていたからチームごとに対策もしていたのでしょう。また暑さで足がつった対戦相手の選手にコールドスプレーをすぐに持っていってあげたり、お互いに助け合うシーンも高校野球らしさを感じました。

 

 さて金足農の躍進が称えられる一方で、エース・吉田輝星投手の投球数が物議を醸しました。今回は吉田投手が決勝まで進み注目されたこともあり、余計に「投げさせすぎだ」「酷使だ」との意見が飛び交いました。でも、エースが県大会から1人で投げるのは、高校野球では当たり前のことであり、現実です。それを防ぐために「球数制限の導入を」と言われていますが、果たしてそれだけで解決するのか、というのが僕の考えです。

 

 もちろん球児の健康を守るために球数を制限するのは効果的でしょう。でも、そこから一歩進んだ対策をしてほしいですね。たとえばベンチ入りを現在の18人から25人に拡大するのはどうでしょう。なぜエース1人に頼ってしまうのか? それは「故障を申告できる環境が整っていない」ことも理由のひとつでしょう。ようは人手不足です。ベンチ入りが25人枠に拡大されれば2番手、3番手の投手を用意することができます。監督としても選択肢が増えるわけですから故障を未然に防ぐことができます。

 

「ベンチ枠を広げると、ますます公立と私立の格差が拡大する」という意見もあります。それなら、私立高の部員数を制限するのはどうでしょう。公立は1学年無制限もしくは30人で、私立は1学年15人とか。少々極論ではありますが、でもこうした案についても議論することは無駄ではないと思います。

 

 今回は記念大会として56校が出場しましたが、この校数は毎年維持してほしいですね。こうやって様々な対策をとっていけば強豪校への一極集中もなくなると思うのですが、いかがでしょう? 次の100回に向けて球数を云々という表面的な対策ではなく、抜本的な改革について話合ってもらいたいですね。

 

 今回は高校野球についてたっぷりと語ってしまいました。プロ野球については来月お話します。

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商高で甲子園に出場し準優勝を果たす。卒業後に近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日、エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)、ロサンジェルス・ドジャース、メキシコシティ(メキシカンリーグ)、再びエルマイラ・パイオニアーズ、そしてオリックス・ブルーウェーブで日本球界復帰と、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


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