日本男子の柔道界において、73キロ級は層が厚い。大野将平(旭化成)はリオデジャネイロオリンピックの金メダリスト。橋本壮市(パーク24)は2017年世界選手権王者である。彼らを筆頭に積極的に技を仕掛ける柔道家が多い。激戦区であるこの階級の代表争いに異色なスタイルで名乗りを上げた青年がいる。東海大学3年生の立川新だ。先述した2人を“動”のスタイルとするならば、立川は“静”だろう。そう表現したくなるほど、彼は組手で強さを発揮する。

 

(2018年8月の原稿を再掲載しています。)

 

 立川は「柔道は組手が大事だと思います。そこが自分の一番の強さ」と語る。初めて彼の試合を見た時に印象的だったのは、足でしっかりと畳を掴んでいることだった。柔道は相手の重心を利用して技を仕掛ける。当然、対戦相手は立川の重心を前後左右に動かそうと、揺さぶり掛けてくる。

 

 ところが、立川は相手の仕掛けにびくともしないのだ。まるで大地に根を張る大木のように体勢がほとんどブレることなく、両足をピタリと畳につけている。そして、襟や袖をとられても、ピンとした姿勢のまま相手をいなすのだ。

 

「試合中にどんなことを意識しているのか」と水を向けると、精悍な顔つきの若者はこう答えた。

「姿勢がいい方が絶対有利なので、常に姿勢は意識しています。軸も大事なので、相手の技を受ける時は軸をブラさないようにもしています」

 

 投げ勝てれば鬼に金棒

 

 立川の受けの強さを肌で感じた対戦相手は、手詰まりになり次第に組むことを避け指導が与えられることが多い。こうなると、立川のペースだ。序盤は、積極的に仕掛ける対戦相手が優勢に見える。だが、徐々に蟻地獄に引き込まれるようにいつの間にか立川の術中にはまってしまうのだ。

 

 このスタイルは、体の強さ、相手の出方を読む冷静な判断力があって成せるものだろう。投げ技特有の痛快さこそないものの、柔道の奥深さを教えてくれる。その一方で立川は自らの課題点をあげた。

 

「自分は指導で勝つことが多いのですが、やっぱり、投げて勝つことが一番楽だと思います。だから投げ技をもっと強化していきたい。そのために打ち込みでしっかりと技のかたちをつくることを意識しています。あとは相手より早く手を出すことと、相手に持たれてしまった状態でも、うまく切って、自分のかたちに持っていけるように常に意識して練習をしています」

 

 当面の目標を「東京オリンピックの73キロ級の代表選手になること」と述べる立川。受けで抜群の強さを発揮する彼が攻め切る型を習得したら、鬼に金棒である。出場権を巡る争いに先に挙げた大野、橋本らが立ちはだかる。強敵を倒さないと代表にはなれない。

 

 鋭い眼差しでにらむ先には東京オリンピックがある。彼の頭の中には2020年に向けての設計図が描かれている。前途を嘱望されるニューフェイスは、どのようにして生まれ育ってきたのか――。

 

(第2回につづく)

 

<立川新(たつかわ・あらた)プロフィール>

1997年11月30日、愛媛県四国中央市生まれ。階級は73キロ級。川之江柔道会-川之江北中-新田高-東海大。3歳で柔道を始める。新田高3年時には高校選手権とインターハイで優勝を飾る。東海大進学後、1年時から講道館杯を連覇。昨年のグランドスラム東京でも王者に輝き、73キロ級で急速に存在感を高めている。組手の強さが最大の武器。身長170センチ。得意技は大内刈り。

 

(文・写真/大木雄貴)

 

 


◎バックナンバーはこちらから