上田哲之「日本シリーズに勝つために」
新井貴浩は引退会見(9月5日)で、いいことを言った。
「本当の戦いは10、11月。チームの力になれるように最後の最後まで、かわいい後輩と喜び合えるように頑張っていきたい」(「日刊スポーツ」9月6日付)
これで、少なくとも選手たちははっきり意識していることが判明した。つまり、カープの課題は、優勝したあと、クライマックスシリーズ(CS)、日本シリーズをどう戦うかなのだ。去年のCSの屈辱、一昨年の日本シリーズの悔しさを、三連覇の今年こそ、晴らさねばならない。
このところ、埼玉西武、福岡ソフトバンクの試合をよく見る。もちろん、敵情視察です。
どちらも、めちゃめちゃ強い。ただ、強さの質には違いがあって、西武はとにかく打線の破壊力がすさまじい。極端にいえば、1番から9番まで4番打者が並んでいる感じ。
その点、ソフトバンク打線は、主役と脇役がはっきりしていて、とにかく、とんでもないのは4番柳田悠岐である。ただし、2番今宮健太だったり、9番に入ったりする上林誠知もクリーンアップ並の打撃をする。ここの打線で個人的に大好きなのは中村晃である。3番とか、5、6番とか、便利に使われているが、大きく足をあげるわりに、速い球に強い。
全盛期の大谷翔平(エンゼルス)の160キロを、もっとも苦もなく打ち返したのは、中村だった。
では、どちらが出てきても勝ち目はないのか(あ、北海道日本ハムという可能性も、もちろんあります)、というと、そんなことはない。
ソフトバンクに大竹耕太郎という左腕投手がいる。熊本・済々黌で甲子園に出て、早稲田大学から育成でソフトバンク入り。今季、支配下登録を勝ち取った。
彼は、ストレートの球速はせいぜい138~140キロ程度。スライダーとかチェンジアップを低めに沈めるのが、生命線である。
彼が西武打線を、6回くらいまで抑え込んだ試合を見たことがある。両サイド低めのコーナーに、変化球がうまく決まっていた。ところが、ちょっとストレート勝負にいったり、高めに浮いたりすると、すかさず痛打を浴びていた。
これは、いい教訓だと思う。今年の大瀬良大地だって、スライダーが低めのコーナーに決まる、という基本線があって、大きな飛躍を遂げたのだ。西武打線はこうすれば抑えられる、という戦略はこのあたりから、出てくると思う。
最後に、それでも、クローザー中﨑翔太は不安ではないですか? いつも最低2人はランナーを出して(もちろん、三者凡退の日もたまにはあるが)、一打逆転のような大ピンチを招いて、最後、ぎりぎり抑え切る、という投球は、西武やソフトバンク相手だと、もしかしたら痛い目を見るかもしれない。
たとえば、日本シリーズ限定で、ヘロニモ・フランスアに8回、9回の2イニングを任せる、という戦略もありではないだろうか。あるいは、試合展開によって、クローザーをフランスアと中﨑と使い分けるとか。悪いけど、今の状態で、今村猛や、アドゥワ誠に日本シリーズの勝ちゲームを任せられるような気がしない。
ちなみに、一昨年、シカゴ・カブスがワールドシリーズを制覇したとき、クローザーのアロルディス・チャップマンを7回から投入するという奇策で勝ち切った。さすがに最後はバテて、打たれたけれど、それでもなんとか逃げ切った。あの手ですね。
いずれにせよ、西武やソフトバンク相手でも、絶対的に通用するリリーフ投手は、フランスアである。彼を酷使して、9月でへばらせるようなことはあってはならない。
(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)