(写真:九十九里大会は今年も大勢の参加者で賑わった)

 ちまたではオリンピック・パラリンピックのボランティアが話題になっている。「ブラックだ」「ただ働きを強要するな」などなかなか風当たりが強いようだが……。

 

 ともあれ、ボランティアは、スポーツイベントには欠かせない。参加費や主催者の負担だけではどうにも賄えないという経済的な理由もある。それ以上に、地域の方々とイベントをつなぐという重要な意味合いがある。

 9月16日に開催された九十九里トライアスロンでもボランティアが大活躍。参加者1800人に対して、500人の方々が選手たちをサポートしてくれた。

 

 この大会のボランティアは、ボランティアTシャツとキャップがもらえるだけ。1日拘束されてこれだけの報酬しかない。それでも、地元の学校や老人ホームなど様々な組織から老若男女が参加してくれ、大会の盛り上げに一役買ってくれている。参加者からしても、地元のご婦人や、子供たちが応援をしてくれ、お手伝いをしてくれているのは素直に嬉しい。元気づけられることも多く、さらに地域を感じられる瞬間でもある。

 

 ところが今年は、ボランティアをまとめる方から連絡があった。

「毎年、ボランティアに暴言を吐く方がいて、ボランティアをしてくれた方が嫌がっています」

 

 残念ながら過去にそのような参加者がいたことを知り、関係者一同がっかり、いや情けない気持ちになった。あまりにもレベルが低いことなので、参加者に注意喚起などはしたくない。そんな葛藤の中、今年の大会を迎えた。

 

 朝の受付会場はレースのスタート時間が迫っており、緊張感もあるので独特の空気が漂う。その中でひと際大きな声が鳴り響いた。「なんで分かんねーんだよ!」と参加者がボランティアに詰め寄っている。

 

 慌ててスタッフが駆け寄り、状況を聞いてみると受付のボランティアに参加者が質問をしたところ、「分かりません」と答えたとのこと。今朝、来てくれたばかりのボランティアが大会すべてを掌握しているわけではないので仕方がないし、大会スタッフにすべき質問だったのだが、彼にはその区別がつかなかったのだろう。それは仕方がないとしても、ボランティアに対して大きな声で詰め寄るとは、あまりにも大人げない……。他のスタッフが対応し、なんとかその場は収まったが、会場の雰囲気は悪くなる。なによりそのボランティアは怖がってしまい、仕事にならなくなってしまった。

 

 その後も、会場内でスタッフが無線の情報に走り回っている中で、場所を聞いてきた選手に教えると、「おまえが案内しろ!」とすごむ参加者がいたり、エイドステーションで、うまく給水を渡せなかったボランティアを罵倒する選手がいたり……残念な報告がいくつか入ってきた。

 

 根底にある誤った意識

 

 誤解しないでほしい。トライアスリートは人間的に素晴らしい方が多く、こんな人は稀だ。でも1800人のうち数人でもそのような人がいると、目のあたりにした人の印象は「このスポーツの人は野蛮だ」という印象にしかならない。それがひいては地元の印象になり、地元の人々から受け入れられないイベントとなってしまう。「あちこちから地元に来てくれているのだから応援しよう」と来てくれた人が、「こんなスポーツなど2度と来なくていい」となってしまう悲劇。参加者自らが自分たちのフィールドを失くしていっているようなものだ。

 

 話を聞くと、この人たちに流れる根底の意識は「俺は金払っているんだから」というもの。もちろんそれには間違いないし、運営側もできる限りスムーズにストレスなく競技ができるように運営努力をする必要がある。それでも全てノンストレスなはずはなく、それぞれの立場で寄り添うしかない。ましてや大会のボランティアに罵倒するなど言語道断だ。

 

 このお金を払っているから何を言ってもいいという感覚は、スポーツ会場だけではなく、社会生活のなかでも時折見られる。スーパーマーケットなどでも、お客の店員に対するパワハラが少なくないし、公共交通でも駅員などへのパワハラが後を絶たないという。今回はスポーツ現場における参加者からのパワハラで、この世の中にはびこる根深い問題である。

 

 残念なのは、トライアスロンをする人にそのような人はほとんどいないと思っていたのに、意外にどこの大会でも見受けられるという事実。こんな苦しいスポーツは、他人のせいにしたり、他人を攻撃したりするような人には続けられない。キャパシティの大きい人が圧倒的に多いのだが、やはり全てではないようだ。そして、ほんの一部のそんな人の行動が、スポーツ全体の印象に変わってしまう。本当に残念で、悲しい行動である。

 

 後日、関係者で話し合う機会をもった。当事者に注意を促すのは当然だが、それだけでは不十分だ。大会として、問題意識をしっかりと訴え、今一度皆が考えてもらえるように進めることとなった。そんなことを改めて言わなければならないのは悲しいけど、スポーツの現場でスポーツを嫌いになる人をこれ以上増やしたくない。

 

 大会終了後、会場で関係者に挨拶していると、ボランティアを担当した親子とお会いした。開口一番「僕が出したコップを選手が受け取ってくれて『有難う!』って言ってくれたんだよ」と子供が自慢げに話してくれた。その時の子供の嬉しそうなこと。選手もハッピー、ボランティア(地域)もハッピー、こんな幸せを生み出せる循環を、これからも続けられる仕掛けを考えていかなければならない。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月に東京都議会議員に初当選。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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