11日、第90回競泳日本選手権2日目が東京辰巳国際水泳場で行われ、男子100メートル背泳ぎで入江陵介(イトマン東進)が52秒57の好タイムで優勝した。この日の200メートル自由形を制した萩野は2位で、昨年に続く連覇はならなかった。女子50メートル平泳ぎは鈴木聡美(ミキハウス)が31秒30の日本新記録をマークし、連覇を達成した。そのほかの種目では、男子50メートル平泳ぎを岡崎晃一郎(自衛隊)が、女子100メートル背泳ぎを竹村幸(イトマン)が、女子200メートル自由形を宮本靖子(東洋大)が、女子400メートル個人メドレーを清水咲子(日本体育大)が制し、4種目で初優勝が生まれた。
(写真:掲示板を見て、勝利を確信しガッツポーズする入江)
 会心のレース、第一人者の意地

 背泳ぎの第一人者・入江が、マルチスイマー・萩野の100メートル背泳ぎの連覇と今大会6冠を阻止した。

「自分のレースだけに集中できた。まわりを気にせず、前半から積極的にいけた」。50メートルのターンでは、日本記録を上回るペースだった。2位の萩野に0秒50の差をつけた。ラストの50メートルも伸びやかな泳ぎで、後半勝負の萩野の追い上げも許さない。自らが持つ日本記録には、0秒33届かなかったが52秒57の好記録をマークした。

 入江は昨夏の世界選手権では個人種目で金メダルを期待されながら、表彰台にすら上がれなかった。そのショックの大きさは、レース直後には引退を示唆するほどだった。現役続行を決めたものの、9月には椎間板ヘルニアになり、水泳から離れた。1月まではターンやバサロなど、練習もかなり制限された。

 結果的にこれが“ケガの功名”となった。プールから離れざるを得ないことによって、水泳への思いを改めて実感し、楽しい気持ちで臨めるようになった。「大会にも笑って入れましたし、精神的にも安定したレースができた。ヘルニアになって良かったと、今は思っています」

「自分を信じてきて良かった」。苦難のシーズンを越え、再び浮上してきた入江。「久しぶりに会心のレースができた。この泳ぎをより固めて、もっといいタイムを狙っていきたい」と語った。

 今大会は6種目にエントリーした萩野にばかり注目が集まっていた。報道陣からは、それに対する意地もあったのかと、問われた。入江は「萩野も僕もここ(日本選手権)が最終目標じゃない。そこは特に何もなかったです」と否定したが、萩野を寄せ付けない強さを見せた泳ぎは“トビウオジャパンのエースはオレだ”と言わんばかりだった。

 貪欲な19歳、周囲のレベルアップを歓迎

 萩野の出場6種目全制覇はならなかった。またしてもその壁となったのは入江だ。昨年は最終日の男子200メートル背泳ぎで敗れ、6冠はならなかった。

 200メートル自由形の決勝から20分あまりで迎えた100メートル背泳ぎの決勝。「ド素人」と本人が語る背中から入るスタートで出遅れると、最後まで差を詰めることもできなかった。ターンでも回転が大きく時間をロスした。萩野を指導する東洋大の平井伯昌監督も「入江くんと比べると、どうしても荒い」と泳ぎの技術に注文をつけた。

 萩野のタイムは53秒08と自己ベストは更新したものの、入江には0秒51差をつけられた。昨年は入江に勝利し、優勝した種目。だが今年は「自分が絶好調でも同じタイムは出せない」と、入江が会心の泳ぎに完敗を認めるしかなかった。

 2年連続で4日間6種目最大12レースと、ハードなスケジュールをこなす萩野。「昨年経験しているので、気持ちの面では余裕がありました」と、泳ぎ自体はそれほど良くなかったという感触だったが、200自由形、100メートル背泳ぎと、いずれも自己ベストは更新した。

 敗れたのが、背泳ぎで世界のトップレベルに位置する入江でも、それをよしとする気はない。目標とするのはマイケル・フェルプス、ライアン・ロクテ(いずれも米国)と、他種目で優勝する選手。萩野は「個人メドレーだけではなく、背泳ぎでも活躍していきたい。そのためにいろいろなところを詰めていって、最終的に一番強い選手になれるよう頑張ります」と前を見据えている。6冠の可能性は潰えたが、その表情は明るかった。

 背泳ぎのライバルに完敗。足りない部分に気付けたことで、自らののびしろを感じた。「それがあるだけ進む道しるべがある。どんどん出てきてほしいですね」。周囲のレベルアップも大歓迎とばかり。19歳の怪物はどこまでも貪欲だ。

 2日目の結果は次の通り。

<男子50メートル平泳ぎ・決勝>
1位 岡崎晃一郎(自衛隊) 27秒63
2位 小関也朱篤(ミキハウス) 27秒69
3位 新山政樹(中央大) 27秒77

<男子100メートル背泳ぎ・決勝>
1位 入江陵介(イトマン東進) 52秒57
2位 萩野公介(東洋大) 53秒08
3位 白井裕樹(ミズノ) 54秒11

<男子200メートル自由形・決勝>
1位 萩野公介(東洋大) 1分45秒89
2位 松田丈志(セガサミー) 1分46秒98
3位 小堀勇氣(セントラルスポーツ) 1分47秒27

<男子1500メートル自由形・決勝>
1位 山本耕平(ミズノ) 14分59秒67
2位 竹田渉瑚(コナミ) 15分5秒16
3位 瀧口陽平(中央大) 15分7秒48

<女子50メートル平泳ぎ・決勝>
1位 鈴木聡美(ミキハウス) 31秒30 ※日本新
2位 松島美菜(セントラルスポーツ) 31秒58
3位 浜野麻綾(法政大) 31秒60
(写真:初日で2位だった100の悔しさをバネに自らの記録を更新した)

<女子100メートル背泳ぎ・決勝>
1位 竹村幸(イトマン) 1分0秒77
2位 赤瀬紗也香(日本体育大) 1分0秒81
3位 辻本茉穂(イトマン) 1分1秒47

<女子200メートル自由形・決勝>
1位 宮本靖子(東洋大) 1分59秒94
2位 松本弥生(ミキハウス) 2分0秒24
3位 高野綾(イトマン) 2分0秒82

<女子400メートル個人メドレー・決勝>
1位 清水咲子(日本体育大) 4分36秒86
2位 高橋美帆(日本体育大) 4分40秒22
3位 谷口憂羅(コナミ高崎) 4分42秒34
(写真:ラスト50メートルまでは日本記録を上回るペースだった清水<中央>)

(文・写真/杉浦泰介)