10日、パンパシフィック選手権(8月、豪州・ゴールドコースト)とアジア競技大会(9月、韓国・仁川)の代表選考会を兼ねた第90回日本選手権が東京辰巳国際水泳場で開幕した。昨年、前人未到の5冠を達成した萩野公介(東洋大)は、前回につづき今大会も6種目にエントリー。初日の男子400メートル個人メドレーで3連覇を達成し、まず1種目を制した。2位には昨夏の世界選手権(スペイン・バルセロナ)の同種目金メダリスト・瀬戸大也(JSS毛呂山)が入った。同100メートル平泳ぎは、2月の短水路日本選手権で平泳ぎ種目3冠の小関也朱篤(ミキハウス)が初優勝。前回王者・北島康介(アクエリアス)は7位で連覇が止まった。女子100メートル平泳ぎでは、17歳の渡部香生子(JSS立石)が鈴木聡美(ミキハウス)ら実力者を抑えて、1分6秒53の高校新記録で優勝した。
(写真:表彰式でも落ち着いた表情の萩野<中央>)
 世界を見据えるマルチスイマー

 今年も“主役はオレだ”と言わんばかりの圧勝だった。萩野が同い年のライバル・瀬戸との直接対決を制した。

 6冠へ向けてのスタートは、ロンドン五輪で銅メダルを獲得し、昨年は日本記録をマークした400メートル個人メドレーだった。予選をトップで通過すると、決勝では隣のレーンには瀬戸。日本記録保持者vs.世界王者の構図となった。萩野はまず第1泳法のバタフライでライバルに差をつける。日本記録を上回るペースで、背泳ぎにつないだ。この時点で瀬戸を体半分離した。
(写真:バタフライでの100メートルは日本記録を1秒近く上回るペース)

 さらに加速し、完全にひとり抜け出した。背泳ぎを終えた時点では世界記録に迫るペースで泳ぐ。もう勝敗ではなく萩野のタイムがこのレースの焦点となった。平泳ぎに入り、少しペースは落ちたが、それでもラストの自由形を残した時点でも日本記録は上回っていた。しかし、最後の踏ん張りどころのクロールで「しんどかった」とバテて伸びなかった。ゴールタイムは4分7秒88と、自らが持つ日本記録には0秒27及ばないものだった。

 予選を泳いだ手応えから、4分4、5秒台を指標に置いていた。だから決して浮かれることもなく気を引き締める。「とりあえず優勝できたことは良かったのですが、記録としてはもうちょっと上を狙っていたので悔しい部分はあります。これが今の実力かな。いちから鍛え直したいと思います」

 序盤から速いペースで入ったのは、世界を意識しているからだ。「世界で泳ぐときはこれぐらいで入っていかないと置いていかれる」。だからといって、最後のペースダウンを許すつもりもない。今大会、「優勝ではなく記録を目指している」と言い切る萩野。マイケル・フェルプス(米国)が持つ世界記録に対する意識も当然ある。「まだ出る実力はないが、それに近いタイムは出していきたい」。6冠を目指す規格外のマルチスイマーが、見据えるものは高い。まずは1種目制覇。「残り5つも楽しみながら、自分の泳ぎをしたい」と語った。萩野が昨年果たせなかった6冠へ向け、好スタートを切った。

 初日の結果は次の通り。

<男子50メートルバタフライ・決勝>
1位 池端宏文(法政大) 23秒67
   河本耕平(SNW) 23秒67
3位 岸田真幸(アクラブ調布) 23秒76

<男子100メートル自由形・決勝>
1位 塩浦慎理(中央大) 48秒69
2位 原田蘭丸(自衛隊) 49秒19
3位 中村克(早稲田大) 49秒25

<男子100メートル平泳ぎ・決勝>
1位 小関也朱篤(ミキハウス) 1分0秒07
2位 立石諒(ミキハウス) 1分0秒51
   崎本浩成(コナミ) 1分0秒51
(写真:北島は7位に終わったが、内容には手応えを感じている)

<男子400メートル個人メドレー・決勝>
1位 萩野公介(東洋大)4分7秒88
2位 瀬戸大也(JSS毛呂山) 4分12秒30
3位 藤森丈晴(日本体育大)4分13秒80

<女子50メートルバタフライ・決勝>
1位 福田智代(コナミ) 26秒74
2位 内田美希(東洋大) 26秒75
3位 山崎美里(セントラル目黒) 26秒93

<女子100メートル平泳ぎ・決勝>
1位 渡部香生子(JSS立石) 1分6秒53 ※高校新
2位 鈴木聡美(ミキハウス) 1分7秒08
3位 金藤理絵(Jaked) 1分7秒23
(写真:高校新を連発し、鈴木<奥>とのマッチレースを制した渡部)

<女子400メートル自由形・決勝>
1位 五十嵐千尋(日本体育大) 4分11秒19
2位 地田麻未(東洋大) 4分11秒48
3位 菊池優奈(東洋大) 4分13秒41

(文・写真/杉浦泰介)