日本シリーズは西武vs.広島でなくちゃ
また、日本野球のいびつな季節がやってきた。セ・リーグの3位チームは、巨人、横浜DeNA、阪神、いずれになったとしても、シーズン負け越しが確定したのだ。つまり、ペナントレースで負け越したチームが、日本シリーズを制して日本一になる可能性があるのだ。
史上最大の下克上とか言われるのかも知れないが、おかしいでしょ、どう考えても。
パ・リーグも、埼玉西武と福岡ソフトバンクが熾烈な優勝争いをするのかと思いきや、西武がソフトバンクとの直接対決を次々に制して、優勝を決めた。気づいてみれば、9ゲーム(10月4日現在)も離している。
これ、たとえば、北海道日本ハムとソフトバンクのファーストステージは順当にソフトバンクが勝ち上がったとして、ファイナルで、もし、そのままの勢いで、ソフトバンクが勝ってしまったら、ちょっとおかしなことになりませんか。じゃあ、終盤の勝負所でソフトバンクを圧倒した西武は、どうすりゃいいんだ。
プレーオフをやりたい気持ちはわかる。2位から4位くらいのチームまで、最終盤まで必死でやりますからね。見る側にとっても、試合はおもしろい。だからこそ、クライマックスシリーズのシステムだけは、早急に改善しなくてはならない。誰もがわかっていることなのに、NPBが手をつけないのはなぜなのでしょうか。
対サウスポー
さて、したがって、願望としては、西武と広島カープの日本シリーズが見たい。西武の猛烈な打線に、カープは果たして、どう対抗していくのだろうか。考えただけでもわくわくする。
参考になるのは、当然、西武-ソフトバンク戦での、ソフトバンクの戦い方だ。
工藤公康監督が意識していたのかどうかは知らないが、アリエル・ミランダと大竹耕太郎をぶつけることが多かったような気がする。ふたりとも、左腕である。
とくに大竹は、ストレートのスピードも140キロそこそこで、コーナーにスライダー、チェンジアップを沈めるタイプである。大竹が抑えるシーンも打ち込まれるシーンも見覚えがある。
抑えるときは、スライダー、チェンジアップが、内外角低めのコーナーに決まっている。それでも、たまに意表を突いてストレートで勝負にいったりすると、ちょっと浮いただけで長打を食らってしまう。
これは、教訓だと思う。西武のような、つまり、1番から順に、秋山翔吾、源田壮亮、浅村栄斗、山川穂高、栗山巧、中村剛也、森友哉、エルネスト・メヒア、金子侑司みたいな猛打線でも(もちろん、日によって変動はあるが)、内外角の低めに切れよく沈むボールが投げられれば、しかもそれでストライクがとれれば、抑えられるのだ。
1番の秋山だってホームラン24本、中村おかわりくんが下手すりゃ7番に入る、4番山川に至っては47本(いずれも10月4日現在)。まあ、すごい打線である。仮に先の打順だったとして、源田と金子以外は、全員4番でおかしくない。
ジョンソンが抑える可能性
もう少し具体的に見てみよう。
9月29日の西武-ソフトバンク戦。ソフトバンクの先発はミランダである。ストレートが145キロ前後。ストレートには角度があり、同じ軌道から沈む感じのチェンジアップがある。
3回裏、1死二、三塁と攻めて、打席に3番浅村の場面。
①外角低め ストレート ストライク
②外角高め ストレート ボール
③内角低め ストレート ボール
④外角低め チェンジアップ ファウル
⑤外角低め ストレート ボール(カウント3-2)
⑥やや真ん中高めにスライダー? チェンジアップ? フォーク?(いずれにせよ、高めに抜けた変化球)
浅村これを打って高いバウンドのショートゴロ。三塁ランナー生還。
もちろん、これで先制を許したわけだが、しかし打ち取ったのも確かだ。この投球でまず言えることは、ストレートが徹底して低めに来ていることである。チェンジアップは意外に甘めに来ても、ストレートはワンバウンドも辞さずという投げ方である。最後は、浅村にしては打ち損じかも知れないが、それを生んだのは、ストレートの低さというべきだろう。
4番山川もいっておきましょうか。
①外角低め ストレート ボール
②外角高め チェンジアップ ファウル
③内角低め ストレート
山川、これを打つも、つまってショートゴロ。
ここで思い出したのが、広島の左腕、クリス・ジョンソンだ。ジョンソンの武器は、なんといっても右打者のインコースに食い込むカットボールである。山川への3球目は、カットボールというより純然たるストレートだと思うが、いずれにせよ、内角低めでつまらせることに成功している。
ということは、ジョンソンも西武打線を抑える可能性は十分にもっているということだ。ただし、その前提として、ここでも、初球に投げたストレートが、低めにきていることがポイントなのだろうと思う。
魅力的な対決
例に取ったこの試合は、実は、ミランダは7回を投げて3回裏の1失点のみ、という好投をしている。その意味では、西武に不利な例にすぎるかもしれない。しかし、だからこそ見えてきたのが、ストレートは、ワンバウンドになっても、徹底して低めに、という投球だ。
ジョンソンは、ミランダよりは多彩で戦略的な投球ができる左腕である。しかし、ちょっとでもストレートが浮いたら、それはスタンドインを意味する。ジョンソン対西武打線。ボール1個分の高さの違いが天国と地獄を分ける、ひりひりするような試合になるに違いない。
そして、もう一人。今、私がもっとも注目する投手がいる。ヘロニモ・フランスア。どちらかといえば、ジョンソンよりミランダに近い左腕。しかし、球速は10キロ近く速い。
だいたい152~156キロ。で、ミランダのように角度のあるストレートと、同じ軌道から沈むチェンジアップ。ただし、この人の場合は、徹底して低目、というような投球はない。
力任せのボールが高めにいっても、球威で抑えきる。
少なくとも、セ・リーグではそうだった。一番印象的なのは、筒香嘉智(DeNA)との対決である。あの筒香が手も足も出ないような三振をする。もっとも、四球も多かったような気もするが……。
無敵の剛球左腕は、果たして西武打線を抑えられるか。私は、カープが本当に勝ちたいのであれば、フランスアを8回、9回の回またぎで酷使する、という奇策も必要だと思っている。
それよりも、あの剛球と、浅村や山川、森の猛烈なスイングが相まみえるとすれば、こんなに魅力的な対決はない。
日本シリーズは、西武対広島を熱望する!
上田哲之(うえだてつゆき)プロフィール
1955年、広島に生まれる。5歳のとき、広島市民球場で見た興津立雄のバッティングフォームに感動して以来の野球ファン。石神井ベースボールクラブ会長兼投手。現在は書籍編集者。