今季のペナントレース最終戦は10月7日の横浜ベイスターズ戦だった。カープは、もちろん、クライマックスシリーズ(CS)に向けての調整。ベイスターズは、残り4試合すべて勝たないと、CS進出の可能性が消える。いわば、背水の陣である。とはいえ、カープも先発・大瀬良大地が単独最多勝となる16勝目をかけて先発。勝っておきたいところである。

 

 さて、驚いたのは横浜のオーダーである。なんと、筒香嘉智、ネフタリ・ソトの1、2番。残り4試合を全勝するためのラミレス監督の秘策が炸裂した。……とは、実は思わなかった。この試合までで、ホームラン王争いは、丸佳浩、ソトが39本でトップ。筒香が38本で追っていた。ソトと筒香に平等にホームラン王のチャンスを与えるための起用という側面もきっとあるに違いない。

 

 カープは最終戦で、横浜は残りが3試合も多いのだから、圧倒的に、ソトと筒香のほうが有利である。それでも、やることはやるんだなあ。一方のカープは、当然のように、3番丸、4番鈴木誠也。1番・丸なんていう奇策はやらないんですね。まあ、1番・田中広輔の盗塁王の可能性も残っていたし。

 

 試合は、大瀬良が、ソトに40号を許してしまう。このとき、外角を変化球で攻めたあと、インコースをストレートで攻めようとしている。それが甘く入ってしまった。

 

 黒田博樹の復帰以来、カープ投手陣の戦略として、打者のインコースを攻めるというチームとしての方針があるのだろう。それが効を奏したから3連覇が実現したという面もあると思う。

 

 だけど、この試合では、ソトと筒香にはホームランを打たれたくないわけで、その点、ラミレス監督なんか、丸の第3打席、第4打席は連続敬遠ですよ。たしかに一塁が空いているケースだったけど、シーズン半ばだったら、次打者・鈴木の一発も恐いわけだし、連続敬遠はなかったのではないか。

 

 つまり、緒方孝市監督の采配は、ラミレス監督とは好対照に、あくまでもオーソドックスだったのである。

 

 もちろん、王道を行くことに、なんの問題もない。ただ、短期決戦には、ラミレス的奇策が必要だと、わたしは思うのだが。

 

 それにしても、丸&誠也の3、4番は、ちょっと心配である。丸など、最終戦までの最後の5試合の成績が18打数1安打。1安打はホームランである。要するに、ヒットが出ていない。極端にいえば、四球か三振か、という打席が目立つ(5試合で、5四球、9三振)。

 

 8月、ヘロニモ・フランスアが月間最多登板のタイ記録を作ったのは、ほとんどの試合が、勝ちか同点で終盤を迎えていたからである。その原動力は、間違いなく、丸と鈴木の3、4番だった。

 

 鈴木など、初球のストレートは必ずフルスイングで向かっていっていた。それが、カープの圧倒的な強さを生んでいた。

 ところが、シーズン終盤では、甘いように見えるストレートを見逃すシーンがあった。大事にいこうという意識が強すぎるように見える。

 

 たとえば、最終戦の7回裏2死。3対3の同点で、丸が歩かされ、一、二塁。横浜の投手スペンサー・パットンは、初球、ストレート、外角にボール。2球目である。ストレートが真ん中から近めへ入ってきた。これを鈴木は見逃したのである。結局、最後は、外角低めのスライダーに空振り三振。

 

 8月だったら、あの2球目は、捉えていたと思うけどなあ。少なくとも、振ったはずだ。

 

 カープが全体練習を再開した10月9日、新井貴浩はこういったという。

「相手を受けとめるのではなく自分たちからプレー的に攻めて行くことが大事。去年は『俺たちが(日本シリーズに)行かないとまずい』と構えて受け身になったと感じた」(「日刊スポーツ」10月10日付)

 

 正直、去年のCSは、横浜に勝てる気がしなかった。今年は、東京ヤクルトか巨人である。

 丸と鈴木が、「プレー的に攻めて行く」打撃を、つまり最終盤ではなくて、普通にシーズン中のバッティングを取り戻してくれさえすれば、容易に勝ち抜ける事ができるはずだ。

 

(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)


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