ボクシングのIBFダブル世界タイトルマッチが23日、大阪ボディメーカーコロシアムで行われ、フライ級では同級8位の挑戦者・井岡一翔(井岡)が、王者のアムナト・ルエンロン(タイ)に1−2の判定で敗れ、ミニマム級、ライトフライ級に続く3階級制覇はならなかった。井岡はプロ15戦目での初黒星。ミニマム級では王者の高山勝成(仲里)が、同級10位の挑戦者・小野心(ワタナベ)を3−0の判定で下し、2度目の防衛に成功した。
<井岡、老獪な王者に手出ず>

 速くてうまくて強い井岡の姿はどこにもなかった。 
 ミニマム級、ライトフライ級での井岡はスピードと手数で相手を上回り、ボディから攻め上げて仕留めるボクシングをみせてきた。

 しかし、初のフライ級での試合のせいか、立ち上がりから動きが重い。ガードを固めて様子をうかがうも手が出ず、1Rから積極的に出てくる王者にペースをつかまれる。

 ルエンロンはアマチュア時代、タイのキングスカップで対戦し、判定で敗れた相手。世界選手権では銅メダルの実績があり、プロキャリアはまだ12戦ながら、全勝で世界王者となった。だが、前日の予備計量、当日の計量ではいずれも最初は規定体重をオーバーしており、調整に不安があった。9つ上の34歳という年齢も考えれば、井岡陣営はスタミナが切れる後半に勝負をかける作戦だったに違いない。

 とはいえ、それも前半に相手の体力を奪っておけばこそ可能になる戦い方だ。井岡は時折、飛び込んでのボディを見せるものの、直線的に入りすぎて王者のアッパーをもらってしまう。これを警戒するあまり、攻撃が単発で続かない。

 主導権を奪ったルエンロンは中盤以降、ロープを背負いながら、井岡を誘いこんでカウンター狙いの戦法に徹する。井岡はノーモーションの右など速いパンチで局面を打開しようとするものの、リーチで勝る王者に先に被弾する場面も多かった。

 何とか距離を縮めようとする井岡に対し、ルエンロンは体を預け、クリンチに逃れる。ロープ際に追い込んでも、ロープのしなりをつかって、うまくスウェーしながら拳を避け、捕まえきれなかった。

 それでも勝負どころとみていた終盤、チャンスもあった。ルエンロンは明らかに疲労がみえ、井岡のジャブやボディが入り始める。10Rにはクリンチを連発する王者にホールディングで減点1が科せられた。ここで一気に勝負を仕掛ければ、逆転も不可能ではなかったかもしれない。そこを割って入るチャレンジャーとしての思い切りが、この日の井岡には残念ながら不足していた。

 老獪な王者はロープを背にして休みながらも、井岡が接近したところでパンチをまとめ、うまく時間を使っていく。最終12ラウンドとなると疲労は隠しきれなかったが、わざと大げさなステップをみせて相手を翻弄。結局、井岡は最後まで思うような攻めができないまま、試合を終えた。

 判定は1者が114−113で井岡を支持も、2者は119−108、115−113で王者に軍配を上げた。中盤以降は井岡が前に出てプレッシャーをかけ続けたとはいえ、下がりながらも的確にパンチをヒットさせていたのは王者の方だった。

 アマ時代の雪辱を果たせず、3階級制覇は一旦、お預けとなった。ただし、これでキャリアが終わったわけではない。プロでは初めての敗戦を糧に、もう一度、あの井岡一翔らしいボクシングを取り戻し、再チャレンジしてほしい。

<高山、苦しみながらも4団体制覇へ>

 どちらが勝ってもおかしくない展開で、アクシデントへの対処が大きく明暗を分けた。
 王者が右、挑戦者が左、ともに得意のパンチを打ち合うかたちで迎えた10Rだ。ロープ際でもつれあった際に、小野の体が半分、リングの外に出てしまう。

 ストップがかかると勝手に判断した挑戦者は自ら動きを止めてしまった。だが、レフェリーは試合を止めない。レフェリーが割って入らないのを確認した王者は一気呵成にたたみかける。しゃがみ込んでしまった小野に対して、レフェリーはダウンを宣告した。

 WBC、WBA、IBFと3団体のベルトを手にしてきた高山と、世界初挑戦の小野。場数の差が出たかたちで、流れは一気に赤コーナーへ。ラウンド終盤には王者が右フックを当て、挑戦者にダメージを与える。

 以降は右をヒットさせながら、高山が攻勢に出た。小野も左で応戦したものの、鼻から出血し、足元がふらつく。最終12Rには、左右のフックにぐらついて前のめりにダウン。最後は王者が押し切ったかたちで3−0(115−111、115−111、117−109)の判定を勝ち取った。
 
 立ち上がりから長身でリーチでも12センチ上回る小野に苦しめられた。ステップインして懐に入ろうとするも、挑戦者は右フックをひっかけてうまく距離をとり、中に入れさせない。さらにリーチの長さを生かして半身の体勢から左を打ち込み、王者の顔面を何度も飛ばす。

 高山はボディから相手を崩そうと試みるが、どんどん左を繰り出してくる小野を攻めあぐねる。焦りからか、ステップが単調になり、7Rはカウンターの右をもらって左目の上をカット。続く8Rには左を受けて右目の上からも出血が見られた。

 唇も切れ、顔が真っ赤に染まる中、王座を守れたのは、IBFが日本ボクシングコミッションに認可される前から、そのベルトを目指して海外でタフな試合を積んできたからだろう。思い通りにいかない状況下でも、終盤はうまく頭を下げて挑戦者の左を避けながら、右を打ち込み、活路を見出した。

 今後はWBO王座に狙いを定め、日本人史上初の4団体制覇を目指す。苦戦の末にハードルを越え、4つ目のベルト挑戦へ環境は整った。