日本シリーズ第5戦が終わった時点で、カープは1勝3敗1分けと福岡ソフトバンクに王手をかけられている。崖っぷちで踏ん張ることはできるのか。

 

 苦戦の理由のひとつにあげられるのが“甲斐キャノン”。カープは6回盗塁を企画して、全て失敗に終わっている。ソフトバンクの盗塁阻止率は100%。甲斐拓也が4回、髙谷裕亮が2回、二塁でランナーを刺した。

 

 日本シリーズが始まる前、ソフトバンクの達川光男ヘッドコーチが甲斐の肩を絶賛していた。

「今まで見た中で最高の強肩。しかも、捕ってから投げるまでが速い。僕らの世代では中日時代の中尾孝義の肩がナンバーワンだったけど、甲斐はその中尾以上じゃないかな」

 

 そして、こう続けた。

「アルフレド・デスパイネによると、地肩だけならキューバには甲斐以上の強肩の持ち主が何人かいるらしい。しかしスローイングの速さと正確さで、彼を上回るキャッチャーはいない、と言っていたね」

 

 それでなくても日本シリーズの盗塁は容易ではない。レギュラーシーズン以上の緊張感を伴うため、ランナーにすれば、足枷を付けられたような気分になるというのである。

 

 パ・リーグの場合、CSファイナルから日本シリーズには5日間の休みがあったが、これも大きい、とあるキャッチャー出身のある評論家は語っていた。「休み肩といって、キャッチャーは2、3日肩を使わないだけでも馬力が戻ってくるんです。日本シリーズの歴史でよく知られているのが“弱肩”で有名だったV9巨人の森祇晶さんが“世界の盗塁王”と呼ばれた阪急の福本豊さんを刺した話。シリーズ終了後、ある阪急の選手たちが森さんに“失礼ながらあれほど肩が強いとは思わなかった”と言ったら“あれは休み肩だよ”とサラッと言ったそうです」

 

 自慢の機動力を封じられたカープが苦戦を余儀なくされたのは理の当然だったかもしれない。

 

(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)


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