残念でしたね、日本シリーズ。もはや、触れたくもないが、たまたま手にした中国新聞(ご承知の通り、カープ球団創設から関わった地元紙)に、こんな記事がありました。

 

<大きな壁となった甲斐の強肩に対し、なぜ広島ベンチは「走れ」のサインを出し続けたのか。緒方監督は「走れば送球エラーとかもある。動いて突破口を開こうと思った」。悪い流れを変えるための仕掛けだったと説明した。

 しかし、セオリーを無視してまで二盗に挑んだ策は、結果的に裏目に出た>(11月5日付「届かなかった頂点」)

 

 いや、もう引用はやめておこう。記事はこのあと、第6戦、0-0で迎えた2回裏2死一、三塁の場面に論及するのだが、もういいですね。

 

 福岡ソフトバンクの甲斐拓也の強肩は、事前にわかりきっていたことであって、当然、そうとう研究して臨んだはずである。私は、走れるとしたら、野間峻祥かな、と思っていたのですが……。

 

 ともあれ、結果を見て他人様がおっしゃるほど、ソフトバンクとカープに力の差があったとは思わない。敗因は、まさに、この記事が指摘する通りだ。

 

 それでも、もし第5戦を勝っていたら、2勝2敗1分の五分になって、わからなかった。しかも、7回表まで4-3とリードして、マウンドにはヘロニモ・フランスアが立ちはだかっていたのである。さすがの緒方孝市監督も、この日は、できれば9回までフランスアを引っ張って勝ちきる算段だったようだ(現に9回1死まで投げた)。勝つにはこの手しかなかったのである。

 

 7回裏1死無走者。打者は、左の明石健志。正直、安全パイだと思いました。前の打者・上林誠知は155キロのストレートで空振り三振に仕留めている。ましてや、明石。そう思う私の下品な根性がいけなかったんでしょう。

 

 明石は、ストレートに対して、ファウルで粘ってきた。こうなれば、大事なのは根負けしないことだ。

 何球目だったか、カウントは2-2だった。捕手・會澤翼は外角低めへ逃げるスライダーを要求した。これを明石に拾われて、同点ホームラン。事実上、ここでシリーズは終わった(実際にはこの試合、10回裏、中﨑翔太が柳田悠岐にサヨナラホームランを浴びて敗戦。第6戦は、0-2で完封負け)。

 

 フランスアを責めるつもりは一切ない。彼は、ソフトバンク打線に十分通用することを証明した。きっと、相手があの埼玉西武打線でも、同じように牛耳った事だろう。會澤もなぁ、ストレートで押しておけば、というのは結果論であって、スライダーで打ち取れる可能性は十分にあった。時の運としか言いようがない。

 

 ここは、気分を変えて、未来のことを考えたい。このあと、フランスアはユリスベル・グラシアル、柳田という強打者を完全に打ち取っている。それだけの球威がある。中﨑は、今シーズンを通して、「中﨑劇場」とよばれる不安定な内容が目立った。

 現在の力からして、将来的に、フランスアがクローザーになるのは、極めて妥当だと思う(先発に回すというなら、また別だが)。

 

 それに際して、思い過ごしかもしれないが、一点だけ。フランスアは、なぜあのスライダーを打たれたのだろうか。低めには来ていた。しかし、やや、横に曲がる軌道だったと思うのだ。

 

 彼が今年デビューした頃、マウンドに上がって投球練習を始める前に、左手を高々と真上に掲げるルーティンがあった。これは、左肘はここを通すんだぞ、上から投げるんだぞ、という確認のように見えた。事実、真上からの腕の振りで投じられる彼のスライダー、チェンジアップは、ストレートと同じ軌道で来て、急激に沈んだ。打者はストレートと見まがったはずである。だから打たれなかった。

 

 しかし、登板過多によって、9月後半からポストシーズンは、わずかに肘が下がっていたような気がする。これが、スライダーの横への曲がりを生んだのではないか。

 

 いや、思い過ごしなら、それでかまわない。ただ、来季以降、一年を通して打者を抑えるためには、重要なポイントだと思う。

 

 こうなったら来年、もう一度、日本シリーズを戦いたいものである。

 

(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)


◎バックナンバーはこちらから