山梨学院大学女子柔道部に所属する佐藤史織は63キロ級の注目選手の1人だ。全日本柔道連盟の強化指定選手から怪我の影響で1度は外れたが、今年の10月に見事、復帰した。

 

(2018年11月の原稿を再掲載しています。)

 

 取材をした時の最初の印象は、“つかみどころがない選手だな”、と思った。インタビューの序盤は「はい」や、「そうですね」といった短い返答が多かった。もちろん、私の聞き方や話し方が下手だったことが大きな理由だろう。しかし、徐々に話していくうちに柔らかい表情を見せてくれて、自らの内に秘めた思いをわかりやすく丁寧に教えてくれた。

 

 彼女への取材後、同大の女子柔道部監督の山部伸敏のもとへ挨拶に伺った。山部は私を研究室に通してくれると「大丈夫でした?」と言った。その理由を聞くと、山部はこう説明した。

 

「佐藤は普段は明るいんですが、初対面の方にはおとなしくて(笑)。あまり自分を表に出すタイプではないと思ったので」

 

 インタビュー写真を撮影する際、私服姿の佐藤は「この格好で大丈夫かなぁ」とつぶやいた。また、笑みを浮かべながら関西弁で話す姿は全国レベルの柔道家ではなく、普通の大学生だった。

 

 相手を刺すような目つき

 

 ところが、である。畳に立つとその表情は一変する。鋭い目つきで相手をにらみ、勝利への執念を全面に出す。佐藤に柔道家としての長所を問うと「スタミナとメンタルの強さ」を挙げた。同じ質問を山部にすると「芯が強くて、粘り強い」と答え、こう続けた。

 

「絶対にあきらめない。彼女の場合は技云々よりもメンタルの強さが抜きんでています。先日、全日本学生体重別(女子34回全日本学生柔道体重別選手権大会)で学生チャンピオンになりました。佐藤の場合は怪我で苦しんだ時間が長かったので、よくここまで来てくれたなと思いました。もちろん、これで満足してはダメなんですけど」

 

 大学4年の佐藤は9月下旬に行われた同大会で自身初となる優勝を果たした。今まで、国内の個人戦でタイトル争いを演じたことは多々あったが表彰台の真ん中に立ったことはなかった。

 

 学生体重別決勝の相手は帝京科学大学3年の幸田奈々。寝技を得意とする選手だった。互いに「指導」を受けて試合は延長戦に突入した。スタミナが落ちない佐藤は積極的に仕掛け、守勢に回った幸田は“消極的な姿勢”と審判に判断されて「指導」を受けた。チャンスと見た佐藤は、何度も背負い投げを試みる。常に先手を取った佐藤に対し、攻める機会を見出せない幸田に3つ目の「指導」が入った。この結果、反則勝ちで佐藤に軍配が上がったのだ。

 

 悲願の初優勝を果たした佐藤はこの大会を「不安しかなかったけど、最後の学生の大会だったので思い切ってやろう」と思い、臨んだという。

 

 不安要素は怪我によるブランクだった。彼女はおよそ1年前、右膝の前十字靭帯断裂という大怪我を負った。1度は復帰するが、同じ箇所の靭帯を損傷して、再度戦線離脱を余儀なくされていた。

 

 アスリートにとって膝の靭帯断裂は選手生命にも関わる致命傷だ。長くつらいリハビリの日々。それでも佐藤は諦めず、怪我と向き合い、国内個人戦で初のタイトルを手にした。心強き柔道家は、どのようにして育ってきたのだろうか。

 

(第2回につづく)

 

佐藤史織(さとう・しおり)プロフィール>

1996年4月19日、大阪府東大阪市生まれ。階級は63キロ級。あすなろクラブ-新田高校-山梨学院大。8歳で柔道を始める。2014年全国高校選手権2位、同年インターハイ2位だった。この9月に行われた全日本学生柔道体重別選手権大会で初めて国内の個人大会で優勝を果たした。10月に全日本柔道連盟の強化指定選手に復帰した。身長162センチ。得意技は袖釣込み腰。

 

(文・写真/大木雄貴)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


◎バックナンバーはこちらから