(写真:世界レベルのラリーで観客を沸かせた奥原と山口)

 第72回全日本総合バドミントン選手権最終日が2日、東京・駒沢オリンピック公園総合運動場体育館で行われた。女子シングルス決勝はBWF世界ランキング2位の山口茜(再春館製薬所)が同5位の奥原希望(日本ユニシス)を2-1で下し、2年連続3度目の優勝を果たした。男子シングルスは世界ランキング1位の桃田賢斗(NTT東日本)が同9位の西本拳太(トナミ運輸)を2-1で破った。桃田は2015年以来、2度目の優勝。女子ダブルスは世界ランキング1位の福島由紀&廣田彩花組(岐阜トリッキーパンダース)が、同2位の髙橋礼華&松友美佐紀組(日本ユニシス)にストレート勝ちを収め、連覇を達成した。

 

 男子ダブルスは世界ランキング3位の園田啓悟&嘉村健士組(トナミ運輸)が、昨年の優勝ペアで同8位の遠藤大由&渡辺勇大組(日本ユニシス)にストレート勝ち。2年ぶり3度目の優勝を果たした。混合ダブルスは世界ランキング3位の渡辺&東野有紗(日本ユニシス)組が、同62位の保木卓朗(トナミ運輸)&永原和可那(北都銀行)組にストレート勝ちし、2連覇した。

 

 プレーの幅広げる21歳の女王

 

(写真:連覇が決まり、場内の声援に応える山口)

 最後はチャレンジで判定が覆り、山口の連覇が決まった。少しはにかんだ表情で歓声に応える姿は、いつも通りの彼女らしいリアクションだった。

 

 日本女子シングルスのWエース。ジュニアの頃から切磋琢磨してきたライバルだ。意外にも全日本総合の決勝でぶつかるのは初だった。山口は2年連続、奥原は3年ぶりの優勝がかかる。いずれも3度目の皇后杯獲得を目指し、コート上で向かい合った。試合前の2分間練習の時点で、奥原はこれまでの戦いと質の違いを感じ取ったという。「ワクワクした」と奥原。日本一をかけた争いは会場が幾度も沸く好勝負となった。

 

 気持ちを全面に出す奥原と、どちらかと言えばポーカーフェイスの山口。普段は攻めの山口、守りの奥原という構図で試合は展開されるが、この日は違った。シャトルが飛びにくいコート側に立った山口は第1ゲームから「しっかり我慢。攻めたい気持ちを抑えた」とラリー戦でも粘りのバドミントンに徹する。試合前は「ボロボロにやられるんじゃないか」と不安を抱えていた山口だが、21-16で第1ゲームをモノにした。

 

(写真:3年ぶりの決勝。山口との好勝負で観客を魅了した奥原)

 だが、ここで勝ちを意識したのか、第2ゲームは17-21で競り負ける。「奥原さんと戦うと、ラリーが長くなって我慢できずに攻め急いでしまう。今日は最後まで我慢できた」(山口)。ファイナルは高い集中力を持って臨めたという。0-2から7連続得点を挙げて、試合を優位に進める。相手のミスもあって、このゲームは21-11で制した。

 

 山口は相手の意表を突くようなトリッキーなプレーが持ち味で、どちらかと言えば自らが仕掛けるスタイルだ。それを今大会改めたのは、ナショナルチームや所属チームのスタッフから「自分から勝負に行き過ぎる」とのアドバイスをもらっていたからだ。全日本総合の舞台でのチャレンジは成功した。山口は「最後の試合でいい内容。満足して終われた」と大会を振り返った。

 

 チームでは8日からS/Jリーグ開幕戦(富山)、個人としては12日からのワールドツアー・ファイナル(中国・広州)が控える。21歳の女王は「今日みたいな良いプレーができたら」と淡々と意気込みを口にした。プレーの幅を広げた山口。朴訥なキャラクターは変わらぬままだ。

 

 同学年対決制し、3年ぶりの戴冠

 

(写真:桃田は優勝が決まると噛み締めるようにガッツポーズ)

 桃田vs.西本の同学年対決は、世界王者・桃田が制した。3年前の初優勝後、違法カジノでの賭博行為で無期限の大会出場停止処分を受けた。再びコートに帰ってきた桃田は一回りも二回りも逞しくなっていた。

 

 一昨年の全日本総合は謹慎中で欠場。昨年は復帰を果たしたものの、準々決勝で敗れた。「昨年は喜んで声を出すこともできず、自分を出せずに終わりました」と、結果も内容も不本意な出来だった。前日の準決勝は常山幹太(トナミ運輸)の棄権により、戦わずして3年ぶりの決勝を迎えた。体力を温存できるメリットはあるが、桃田は「試合をしたかったのが正直な気持ち」と語った。会場内で西本の上田拓馬(日本ユニシス)戦を見守り、「西本のクオリティーが高かった」と焦りを覚えたという。

 

(写真:今シーズン、アジア競技大会銅メダル、ツアー優勝などの好成績を挙げた西本)

 それでも王座奪還への想いは強かった。「技術どうこうではなく気持ちの勝負」と試合に臨んだ。「1ゲーム目は相手側から自分の方へシャトルが飛んでいた。自分が打つシャトルは戻されるので、強気で押していけた」と桃田。21-9と西本を圧倒した。上々のスタートを切ったが、コートチェンジした第2ゲームは西本に18-21と競り負けた。「攻め急いでしまった。周りが見えず、勝ち急いで空回りしてしまった」。それでも世界王者としての意地がある。

 

 ファイナルゲームではきっちり修正してみせた。6-2の場面で、西本のスマッシュを食い止め、最後は逆を突く絶妙なクロスカットを決めた。「相手の動きが見えていた」と冷静沈着なプレーで、西本を翻弄した。7-3から4連続得点、16-11からは5連続得点で試合を決めた。優勝が決まった瞬間、ひざまずいてガッツポーズ。3年ぶりの天皇杯を手にした。

 

(写真:巧みなラケットワークでも魅せた。今シーズンは抜群の安定感を誇る)

 今シーズンはアジア選手権、世界選手権を制し、ワールドツアーでも優勝を重ねている。9月には日本人初の男子シングルスでのBWF世界ランキング1位に立った。「1年積み上げてきたものを自信を持ってプレーした」。充実の1年に日本一のタイトルを付け加え、王者は胸を張った。

 

(文・写真/杉浦泰介)