グラウンドに響き渡る声。早稲田大学ア式蹴球部練習場の東伏見グラウンドで味方への的確な指示を送り、時には鼓舞するゴールキーパー(GK)の姿があった。その大きな声の主は木付優衣――。全日本大学女子サッカー選手権大会(インカレ)で3連覇中の早大の4年生だ。

 

愛媛新聞社

 

 

 

 

 ピッチ上でただ1人、インプレー中に手を使うことが許されるのがGKというポジションだ。しかし最後の砦として幅7.32m、高さ2.44mのゴールを守ることだけが仕事ではない。最後尾からフィールドを見渡し、状況を見極める能力も必要とされる。そこから味方に指示を送り、サポートするのも大事な役割のひとつである。

 

「『声が大きい』とは、よく言われます」

 そう口にして、木付は微笑む。フィールド上で声を出すことは彼女自身、強みにしている部分である。

「“GKってどうやったら目立てるやろうか”と考えた時に、“声を出したら目立てる”と思ったのがきっかけだったと思います。確か小学生の頃からですね。まずはプレーで貢献したいですが、味方を鼓舞することでチームの士気を高めたいとも考えています」

 

 今年度から早大の指揮を執る川上嘉郎監督は、コーチ時代から木付を見てきた。川上監督は彼女の“声質”を称える。

「仲間のやる気を促すような声が出せるんです。その声は叱咤というよりも激励に近い。そこに彼女の人柄が表れています。本当に優しい子です」

 指揮官はその人間性、リーダーシップも買っている。現在、早大ではグラウンドマネージャーを務め、GKの練習メニューを考えることもある。

 

 気持ちの強さが放つオーラ

 

 声ばかりに気を取られてはいけない。GKとしての能力は高い。川上監督は木付の技術面をこう評価する。

「GKの能力は整っていて、弱点が少ない。俊敏性が高く、反応が非常に良い。波が少なくて、とても安定しています」

 弱点を強いて挙げるなら、サイズの小ささくらいである。164cmとGKとしては決して大柄ではない。そこは経験と予測で補っているのだ。

 

 今年度の公式戦で、木付は15もの無失点試合を記録している。抜群の安定感を誇る彼女は「完封試合はフィールドプレーヤーのおかげだと思っています」と、自らの手柄とはしない。フォア・ザ・チームの精神でありながら、木付は強烈な自負心を持ち合わせる。「味方のミスを帳消しにできる」。GKの魅力をそう考える。

 

 言葉の端々に勝気な部分を覗かせる。“まだやれる”。その溢れんばかりのエナジーこそが彼女のピッチ上で放つ存在感を際立させているのだろう。

「非常に気持ちの強い子です。他の子と比べても強い意欲が出ています。それが練習の中でゲーム形式となるとスイッチが入る。それが試合となれば更にスイッチが入るんです」(川上監督)

 

 木付のサッカー人生は小学2年からスタートした。始めたきっかけは「仲の良かった友達がみんなサッカーを始めたので、週末遊ぶ子がいなくなるから」という。運動神経の良さには元々、自信があった。男勝りな性格でドッジボールを得意としていた彼女がGKというポジションを選んだ理由とは――。

 

(第2回につづく)

 

木付優衣(きつき・ゆい)プロフィール>

1996年4月11日、愛媛県松山市出身。小学2年でサッカーを始める。中学からはAC MIKANでプレー。全国大会出場も経験した。兵庫の日ノ本学園進学後は、2年連続2冠を成し遂げた。高校卒業後は早稲田大学に進み、なでしこリーグのジェフユナイテッド千葉・市原レディースに入団。大学2年からは早大ア式蹴球部女子部に移籍し、主力として活躍。正GKとして全国大学女子サッカー選手権大会3連覇達成に貢献している。3年時にはユニバーシアード競技大会で日本代表に選ばれ、銀メダルを獲得した。身長164cm。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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