変人とは言わないまでも、ピッチャーにはユニークな個性の持ち主が多い。最大級の褒め言葉を用いれば「まれびと」である。協調性よりも独創性が重視されるポジションゆえ、当然と言えば当然か。

 

 その中でも、オリックスから北海道日本ハムに移籍した金子弌大(千尋改め)は、極めつけの「個性派」である。ファッションセンスからして「まれびと」の匂いが漂っている。

 

「得意なボールをつくってはいけない」「ピッチングスタイルを確立させるのは、もっとよくない」。こんなことをポーカーフェイスでサラッと言ってのけるのは金子くらいのものだろう。

 

 その理由は何か。「通常、ピッチャーは自分の一番いいボールを投げたいと考えている。僕も昔はそうでした。でも、実際の試合ではフォームが崩れてしまったり、思い描くボールが投げられない時もある。そんな時でもバッターを抑えなければならない。(ピッチャーにとって)重要なのはバッターにとって打ちづらいボールを投げるということ。凡打してベンチに戻る時、“どうして、あのボールが打てなかったのか”と悔しがるようなボールこそをピッチャーは投げるべきなのです」

 

 わかったような、わからないような。劇画『巨人の星』で育った私たちの世代には未だに「一球入魂」史観がある。ウイニングショットを完璧なものにするためには、球に魂を込める必要があるのではないか。「いや、ひとついいボールがあると、キャッチャーはそれに頼りたがる。当然、バッターはそれを狙ってくるでしょう」。ヒラリとかわされてしまった。

 

 とはいえ、ピッチングスタイルの確立は重要なはず。そのために、日々修練しているのではないか。「いや、ピッチングスタイルを確立すると、相手はそれに合わせた対策を練ってくる。“金子はこうだ”と思われるのは僕にとってマイナスなんです」。煮ても焼いても食えたもんじゃない。苦笑を浮かべつつ、インタビュアーはヒザを打った。きっと、これが“カネコワールド”なのだろう……。

 

 3年前に金子は言った。

「究極の理想は、全部、真っすぐの回転で(バッターの手元に)きて、最後だけ勝手に変化する。そんなボールを投げてみたいんです」。地味ながら歴とした“魔球”である。来季こそ目撃できるのか。

 

 

<この原稿は18年12月12付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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