年の瀬も押し迫って球界はシーズンオフの真っ只中です。各球団、ほぼ契約更改交渉も終了し、巨人・菅野智之が球界最高額タイの6億5000万円(金額は推定・以下同)で更改したなど景気の良いニュースが聞こえてきます。そんな中、千葉ロッテ・松永昂大が契約交渉の場で「中継ぎの待遇改善」を訴えたといいます。ずっとセットアッパーとしてやってきた私としても松永ら中継ぎ陣の気持ちは良くわかります。

 

 チームメイトへの発破

「査定が厳しいのではないか?」と松永は意見したそうですが、今も昔も中継ぎの訴えるところは変わりませんね。私も現役時代、同じことを近鉄経営陣に訴えました。
 中継ぎとしては勝っても負けても出番があるので、チームの勝敗に関係なく評価してほしいというのが本音です。また先発と違って自分のペースで準備をして投げることができない。中継ぎ投手には「チームは俺たち中継ぎでもっているんだ」という自負もあります。

 

 特に今は登板数が50試合、60試合と私の時代に比べても増えてきている。結果を残せなかった先発投手に"甘い査定"をするのなら、シーズンのほぼ半分に投げた中継ぎも正当な評価をしてもらいたいですね。

 

 私は契約更改の席でガンガン、経営陣とやりあいました。「この評価は低すぎる」「これじゃ納得できない」など。実はこれらの言葉はフロントに向かって言っているのと同時に、チームメイトたちに向けての発言でもあったんです。

 

 先発陣や野手陣からは「中継ぎ大変やな。ありがとう」と言われますけど、「ホンマにわかってんのか?」と(笑)。交渉の席上でワーワー言っていたのは、先発には「もうちょっと踏ん張ってくれよ」、野手には「ちゃんと点を取ってくれよ」というメッセージも込めていたんです。

 

 松永は7000万円で更改したそうですが、もっともっと貰えるようになってほしい。勝っても負けても投げている中継ぎが当たり前のように1億円プレーヤーになる、そういう時代がくるといいですね。菅野の6億5000万円もすごいけど、ほぼ中継ぎ1本で2年5億円の契約を勝ち取った北海道日本ハム・宮西尚生もすごい。もっともっと中継ぎの評価が上がることが、プロ野球のためにもなると思っています。

 

 巨人大補強の真意

 今オフは巨人の大補強が話題でした。FAで炭谷銀仁朗、丸佳浩を獲得し、さらに元メジャーリーガーの中島宏之、岩隈久志とも契約。「金満補強だ」との声もありますが、私はこの補強には原辰徳監督の「セ・リーグの底上げを」というメッセージが込められていると考えています。日本シリーズ、交流戦と「パ高セ低」が続いていて、さらにセ・リーグでは広島の一強時代です。こうした状況を打破して、セ・リーグの他チームにも奮起を促す意味もあるのでしょう。

 

 さてそれに一番応えなければいけないのが阪神です。これまでの補強を見ていると投手陣のコマは十分ですが、一方で大砲不在が気になるところです。さらに阪神で一番の問題はイキのいい若手がいないこと。特に外野手ですね。糸井嘉男、福留孝介の両ベテランが3つある外野レギュラーのうち2つを占めていて、それを追い落とすくらいの若手がなかなか出てこない。そういう選手が出てこないと阪神の躍進は厳しいでしょうね。ただ、矢野燿大新監督になり、さらに最下位からのスタートなので思い切ったことができる。そういう意味で矢野阪神の戦いが楽しみです。

 

 丸が抜けた広島は若い選手が多く、総合力は相変わらず高い。ただ若い選手には勝ち出すと"試合慣れ"しまう危険性があります。例えば負けゲームでゲームセットを待たずに「今日は無理かな」と思ってしまうことがある。強いチームもこういうところから綻びが出る。以前は黒田博樹や新井貴浩という精神的な支柱がいて、そうした"試合慣れ"を防いでいましたが、彼らが抜けた影響は……。来季の広島の課題ですね。

 

 パ・リーグは日本ハムが腰を据えた補強をして、怖い存在です。オリックスから移籍してきた金子千尋がどこまで活躍するか、また2年目の清宮幸太郎がどこまで伸びるか、非常に楽しみです。

 

 来季に向けて楽しみな選手をあげれば、巨人はブレーク2年目の岡本和真、阪神はエース候補からエースへと期待される藤浪晋太郎、秋山拓巳。中日はドラフト1位で入った根尾昂が1年目からどこまでやるのか注目しています。あとは東北楽天の浅村栄斗も新天地でどういう活躍を見せるのか。ポンポンと楽しみな選手の名前が思い浮かぶということは、それだけシーズンも面白くなるということです。

 

 来季も素晴らしい戦いが数多く見られることを祈っています。では、みなさん、良いお年を!

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商高で甲子園に出場し準優勝を果たす。卒業後に近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日、エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)、ロサンジェルス・ドジャース、メキシコシティ(メキシカンリーグ)、再びエルマイラ・パイオニアーズ、そしてオリックス・ブルーウェーブで日本球界復帰と、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


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