“ボクシング界の上戸彩”と呼ばれる女子の世界チャンピオンがいる。WBA女子世界ライトミニマム級王者の宮尾綾香(大橋)だ。3月にはブアンゲルン・ワンソンチャイジム(タイ)を5RKOで下し、4度目の防衛に成功した。短大時代まではバスケットボールをしていたが、「個人競技をやってみたい」とボクシングを始め、2004年にプロデビュー。08年に大橋ジムへ移籍してから力をつけ、世界のベルトを手にした。「勝つのも負けるのも自分次第で、人のせいにできないボクシングは性に合っている」と日々、自らの拳を磨き続けるチャンピオンに、二宮清純が今後の目標を訊いた。
(写真:身長は153センチと小柄で現状は減量も不要。「筋肉を増やして増量したいのに、なかなか苦労しています(苦笑)」と明かす)
二宮: 4度の世界王座防衛も、まだ通過点でしょうが、ボクサーとして、ここまでは到達したいというゴールはありますか。
宮尾: とにかく強くなりたい。そう思ってボクシングを続けてきました。ただ、その強さが何をもって証明されるかは、まだ自分の中で分からないんです。チャンピオンベルトを獲ったから強くなったかといったらそうでもない。では、誰かと闘って勝ったら強くなったと言えるのか。それも分からない。自分が納得する“強さ”とは何なのかが見えていないんです。

二宮: 現時点では強さの意味を模索している段階ということでしょうか。試合に勝つことはもちろん、ボクシングの内容や精神面も含めた総合的なものかもしれませんね。
宮尾: そうですね。試合で勝つためには当然、強くなければいけない。たとえ「いい試合だった」と褒められても負けるのはすごくイヤです。

二宮: 強さを追求する上では、練習だけでなく、日々の生活もボクシングを中心に行動していることでしょう。つらいと思うことはありませんか。
宮尾: 今の生活でつらいと感じることはないですね。周りからみればストイックな生活かもしれませんが、自分ではそう思っていません。強いて言えば家族に迷惑をかけているのが申し訳ないと思うくらいですね。

二宮: その家族も、最近は試合になると実家の長野から応援に駆けつけてくれるとか。
宮尾: 家族や地元の皆さんが、一緒にバスでわざわざ応援に来ていただけるようになったのはうれしいことですね。だからこそ、勝って強い姿を見せることが一番の恩返しだと思っています。

二宮: 女子ボクシングは前回のロンドン大会から五輪競技にも採用されました。リオデジャネイロ大会からプロの参加も認められますが、団体が異なるため、現状では宮尾さんたちは出場できません。
宮尾: 他の競技ではプロのトップ選手が出ているものもあるのに、女子ボクシングでそれができないのは残念ですね。階級制に加えて、女子は決して選手層が厚くないので、五輪に出られる選手と出られない選手で分かれてしまうと限られた人数の中で闘うことになってしまう。選手層を厚くする上でも垣根はなくしてほしいなと感じます。

二宮: 現在、女子ではWBCアトム級で小関桃選手が(青木)連続13回の防衛を果たしています。強さを追い求める過程で防衛回数もこの記録に近づけることを目指すと?
宮尾: 防衛回数を増やすことも大事ですが、王座統一戦をして違う団体のベルトを獲りたいですね。今、私と同じ階級には他に2人の日本人チャンピオンがいます。女子ボクシングがたくさんの人に注目されてファンを増やしていくには、いずれはチャンピオン同士でどちらが強いのか勝負をしたいと思っています。

二宮: このところ10連勝中で約4年間負け知らずです。防衛を重ね、誰と闘っても負けないという自信も出てきているのでは?
宮尾: 練習をしっかりしているので、“これだけやったんだから負けない”“負けるのは納得いかない”と思えるほどの自信はついてきていますね。リングに上がってもヘンな緊張はしなくなりました。同じぐらいの体重の選手たちには誰にも負けたくないし、負けない。それが今の率直な気持ちです。

<現在発売中の『第三文明』2014年7月号でも、宮尾選手のインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>