ついにボクシング人生を賭けた大勝負に挑む。
 ボクシングWBC世界フライ級王者の八重樫東(大橋)が、9月5日に東京代々木第二体育館で4度目の防衛戦に臨むことが発表された。挑戦者は元世界2階級制覇王者の同級1位ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)。戦績は39戦全勝。うち33KOという圧倒的な強さを誇る。八重樫は前回の防衛戦前より、軽量級最強と謳われる“ロマゴン”の挑戦を受けることを公言していた。果たして“ニカラグアの小さな怪物”に対して勝算はあるのか――。二宮清純が訊いた。
(写真:奇しくも二宮とは誕生日、血液型が一緒!)
二宮: 9月にロマゴンを迎え打ちます。いよいよですね。
八重樫: もう、やるしかないですね。こういう勝負はやりたくてもできない人もいるし、やりたくない人もいる(苦笑)。ただ、僕はチャンスがあるなら、やりたいと思っていました。

二宮: 既に映像で動きを研究していると思いますが、どんな試合になると予想していますか。
八重樫: 相手はかなり高いレベルだと想定しています。対峙してみて、今までにないパンチやプレッシャーの強さを体感することになるでしょう。足を100%使い切ってボクシングをするのは不可能だと思っています。どのみち打ち合いになるなら、最初から頭をつけてガチガチに闘うのも、ひとつの選択肢かもしれません。

二宮: まずは立ち上がりで相手をリズムに乗せないことが大事でしょうね。
八重樫: ロマゴンは自分のペースに引き込んでおいて、なぎ倒しに来るタイプのボクサーです。その中で、いかにこちらも自分のボクシングを機能させるか。何とか前半を乗り切れば、終盤は頭をつけてぐじゃぐじゃな展開に持ち込むことができるのではないかと考えています。

二宮: ロマゴンも好戦的な部分がありますから、うまく打ち合いに持ち込めばチャンスが出てくると?
八重樫: そうかもしれません。被弾は覚悟の上で、相手が打ってきてくれれば、僕のパンチも多少は当たるでしょうから、そこで勝負できたらいいですね。でも、破壊力が格段に違うと思うので、実際には僕の耐久力がどこまで持つか……(苦笑)。

二宮: 文字どおり“肉を斬らせて骨を断つ”闘いになるでしょうね。
八重樫: はい。まさに特攻隊の精神ですね。片道燃料で勝負するしかない。燃料がなくなったら、あとは命がけで突っ込むだけです。

二宮: 八重樫さんのアドバンテージをあげるとすれば、ロマゴンはフライ級での世界戦は初めて。八重樫さんは既に4度の世界タイトルマッチを経験しています。
八重樫: 確かにそこはポイントになるでしょうね。もちろん彼もフライ級の体重で試合はしていますが、世界戦で12R闘える体をつくれているかどうかは分からない。

二宮: 昨年より日本ボクシングコミッションが公認する団体が4つに増え、その分、世界チャンピオンが出やすい傾向になっています。単に世界のベルトを巻くだけでなく、どんな試合をするか中身がより問われますね。
八重樫:(同じ大橋ジムの井上)尚弥も言っていましたが、「世界チャンピオンはなってからがスタート」。確かにチャンピオンになるのはすごいことですが、なればいいというものでもなくなってきた。誰とやったら観る方もやる方もおもしろいか。負けていい試合なんてないですけど、負けるかもしれないとハラハラドキドキするような相手とたくさん対戦したいですよね。その方がきつい練習をするにしてもやりがいがある。

二宮: ただ、負けてベルトを失うのはつらいことです。その怖さはありませんか。
八重樫: 何回も負けているんで、もう失うものはないですよ。今回のロマゴン戦は立場上は防衛戦ですけど、実力的には僕が挑戦者みたいなもの。そういう位置づけで試合ができるのは、むしろありがたいですよ。負けても「やっぱりね」と言われるだけ。もし勝ったら「おぉ、すごいね!」と皆を驚かすことができる。ただ、今はそんなにプレッシャーを感じていませんが、今回は試合が近づいてくると恐怖心も出てくるような気がします。

二宮: 夜、眠れないとか、普段とは違った心理状態になるかもしれないと?
八重樫: もしかしたら今回に関しては、そういったことがあるかもしれませんね。あまり意識していないようで、どこかでは常に考えている。いつも以上に追いつめられている感覚はあります。

二宮: 逆転の発想をすれば、ロマゴンに勝てば世界に八重樫東の名前をとどろかせることができます。千載一遇のチャンスです。
八重樫: そうですね。たとえ負けても仕方ないのだから、やるだけやればいいと割り切れますよね。大橋(秀行)会長からは「ボクサーにとって大切なのは誰に勝つかではなく、誰と闘って負けるか」だと言われました。もちろん、最初から負けるつもりはないんですけど(笑)。

<現在発売中の小学館『ビッグコミックオリジナル』(7月5日号)に八重樫選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>