松田元オーナーによると「現実的に3番を打てる選手」(「日刊スポーツ」1月8日付)なのだそうだ。記事はこうも書いている。「FA権を取得しており、来オフに行使する可能性もゼロではない」(同)。

 

 丸佳浩の人的補償選手として、カープが巨人から獲得した長野久義のことである。

 へーえ。カープも面白いことをやりますね。なにしろ、2度のドラフト指名を拒否してまで巨人入団にこだわった、あの長野である。

 

 実際に入ってきて、選手たちの間にどのような化学変化が起こるのか、にわかには想像がつかない。ただ、カープとしては、4連覇実現のため、実利を取ったということだろう。

 なにしろ、2年連続リーグMVPの外野手が抜けたのだから、そういう補強も必要かもしれない。

 

 ただ、より長い目で見ると、2016年から2018年までリーグ3連覇を果たした強いカープは、転換期を迎えている。菊池涼介だって、今オフのポスティングによるメジャー移籍の希望を表明したのだ。現在のカープは、おおざっぱに言うと、「キク・マル」コンビの誕生とともに強豪への道を歩みはじめ、黒田博樹の復帰で一気に花開いた。歴史は、次の段階に進みつつある。

 

 その来たるべき新時代の旗手になるのは、野手では、2年目を迎える中村奬成と、今季のドラフト1位ルーキー小園海斗ではないか。中村については、前回、少し触れた。

 

 小園について言うと、初めて見たのは報徳学園2年の時のセンバツである、なんだか、よくヒットを打つ選手だな、という印象だった。長打というよりも、とにかく、振ればヒットになる感じ。

 

 次に見たのは3年夏、すなわち去年の甲子園。すでに、ドラフト1位候補にあげられる注目選手だった。その守備力も評判であった。1回戦は、たしか二塁打3本打ったのではなかったか。相変わらず打つのかと思ったら、2回戦では当たりが止まり、エラーも出た。

 

 もちろん、甲子園の成績だけで語ることはできない。プロに入って、どう成長できるかが勝負である。丸だって、入団当初は巧打者ではあってもホームランバッターではなかった。彼の体は年々大きくなった。それとともに、長打力もついてきた。去年は、その努力がついに実って39本塁打に結びついたのである。

 

 だから、今から予言めいたことを言っても始まらないのだが、小園は、少なくともヒットなら、1年目から打てるような気がする。

 

 といっても、ショートには田中広輔がいる。今の田中が、やすやすとポジションを譲るとは思えない。とすると、チャンスは、いまだにレギュラーが固定しないサードか。

 

 敬愛するスポーツジャーナリスト安倍昌彦氏は、内野手として「じっくり育てていくべきだ」としながらも、こう言っている。

「ウルトラCとして、私個人の見解としては小園選手をショートではなくセンターで起用することで球史に名を残すことができる選手になるのではないかとも思っています」(「ATHLETE」2018年12月号)。

 

 ほーお。安倍さんという方は、20年以上も前にお目にかかったときから、豊かな表現力と奇想の持ち主だったが、この発想がありましたか。

 

 もっとも、実際には、「日本一のショートになる」という大望を抱いてプロに入った青年を、いきなり外野へコンバートということは、あり得ないだろう。

 

 ただ、ここで重要なのは、小園は一軍でも打てるだろう、という確信である。

 

 もう一度、黒田復帰から3連覇に至るここ4年を振り返ってみるとよい。カープの試合を観るのは楽しかった。逆転勝ちが多かったから? それもあるだろう。なにより、我々はこの3~4年で、選手がどんどん成長する姿を目の当たりにしたのである。

 

 田中は入団時とは比べものにならないくらい守備が良くなった。丸の長打力は年々すごみを増していった。「神ってる」全国デビューを果たした鈴木誠也は、故障を乗り越え、真の4番の姿に近づこうとしている。會澤翼も、ついに「打てる一流捕手」の域に達した。大瀬良大地も、とうとうエースのピッチングができるようになった……。

 

 いずれも4年前と比べたら、雲泥の差である。

 3連覇を観るのが快感だったのは、それがとりも直さず、若い選手たちが一流、あるいは超一流の域へと成長する過程の目撃者となる行為だったからである。

 

 我々は、再び、若い選手たちが成長する様を目撃し直さなくてはならない。たとえば小園のバッティングが、丸のような成長曲線を描くのを見ることができれば、それはとりも直さず、また新たなカープの黄金時代の到来を目撃することになるだろう。

 

(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)


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