15日(日本時間)、FIFAワールドカップブラジル大会のグループD第1節で、イングランド代表(FIFAランキング10位)とイタリア代表(同9位)が対戦した。試合は前半35分、イタリアがMFクラウディオ・マルキージオのミドルシュートで先制に成功する。しかし、直後にイングランドに同点に追いつかれた。後半開始早々、FWマリオ・バロテッリのゴールが生まれ、イタリアが再びリードを奪う。残り時間を堅い守りで逃げ切ったイタリアが2−1で勝利。優勝経験のある強豪同士の対決は、4度の優勝を誇るイタリアに軍配が上がった。

 エース・バロテッリ、決勝弾(マナウス)
イングランド 1−2 イタリア
【得点】
[イン] ダニエル・スターリッジ(37分)
[イタ] クラウディオ・マルキージオ(35分)、マリオ・バロテッリ(50分)

 前回大会のリベンジに燃えるイタリアが、“サッカーの母国”イングランドを撃破した。

 連覇のかかった4年前の南アフリカ大会でグループリーグ敗退の屈辱を味わったイタリア。それまでは“カテナチオ”(イタリア語でかんぬき)と呼ばれるように、堅い守備が売りだったが、チェザーレ・プランデッリ監督の指揮の下、ボールをつなぐアクションサッカーへと変貌を遂げた。12年のEURO(欧州選手権)で準優勝し、昨年のFIFAコンフェデレーションズカップでも3位に入るなど、強豪復活への道は着々と進んでいる。その旗頭が中盤の底からタクトを振るう司令塔のアンドレア・ピルロだ。彼からの長短織り交ぜた正確なパスが、攻撃の起点となる。

 対するイングランドも、前回大会の決勝トーナメント1回戦でドイツに大敗した苦い記憶がある。ロイ・ホジソン監督は、今大会のメンバーに調子の良い若手や、国内リーグ戦で復活を遂げたリバプール勢など、ノッているプレーヤーを中心に選出した。この日のスタメンにもそれは色濃く表れ、リバプール勢をセンターライン中心に5人起用した。

 試合はイタリアがボールをつないでじっくり攻めるのに対し、イングランドは縦に速いサッカーを展開した。ファーストシュートはイングランド。4分に、MFラヒーム・スターリングがペナルティエリアの外から挨拶代わりの豪快ミドルシュート。ボールはサイドネットを揺らし、一瞬スタジアムが大きく沸いたが、ゴールの外側だった。リバプールで活躍する19歳の若手が、まずはその積極性で魅せた。

 直後には、中央でボールを持った同じくリバプールのMFジョーダン・ヘンダーソンが、ペナルティエリアの外からミドルシュートをゴール右に放った。今度は枠をとらえていたが、ここで立ち塞がったのがGKサルバトーレ・シリグだった。フランスの名門パリ・サンジェルマンでゴールマウスを守る27歳が、ケガでスタメンを外れたジャンルイジ・ブッフォンの代役に選ばれた。その期待に応えるべく、アンダーソンのシュートを弾き出した。

 イングランドはその後も縦に速い攻撃でチャンスを作る。スターリング、MFダニー・ウェルベックがサイドを突破し、ゴールを脅かすが得点を奪えない。すると徐々にイタリアが、敵陣に攻め入る。

 そして試合が動いたのは35分。右CKを得たイタリアはショートコーナーを選択し、右サイドでボールを受けたMFマルコ・ベラッティがマイナスのグラウンダーパスを送った。ここでマークを引き付けていたピルロがスルー。中央で待ち構えていたマルキージオは完全にフリーでボールを得た。落ち着いてトラップでボールをコントロールし、右足を一閃。ペナルティエリアの外から放たれた低くて速いシュートは、ゴール左隅に突き刺さった。

 欲しかった先制点を奪ったイタリア。マルキージオのシュートも素晴らしかったが、ピルロの演出も大きかった。キャンプマークを巻き、口元を覆うほどたくわえた髭。ただでさえ存在感があるプレーヤーが、気にならないはずはない。誰もが虚を突かれた“アシスト”。チームの顔である男の粋な仕事ぶりだった。

 イタリアの顔がピルロならば、イングランドの顔はMFウェイン・ルーニーだろう。直後の37分、スターリングの縦パスに抜け出したルーニーが左サイドを突破し、センタリングを上げる。背番号10から放たれた正確で柔らかいボールは、後は流し込むだけでよかった。ゴール前に走り込んだFWダニエル・スターリッジは右足で合わせて同点ゴール。エースの活躍でイングランドがすぐさま同点に追いついた。

 アディショナルタイムに入り、イタリアが決定機を迎える。ペナルティエリア内に侵入したバロテッリがGKジョー・ハートと1対1に。飛び出したハートに左サイドに追い込まれたが、そこからループシュートを放つ。カーブのかかったボールは、ゴールに吸い込まれる軌道を描いた。しかし、ここはDFフィル・ジャギエルカが頭でクリア。同点のまま前半を終了した。

 惜しくもゴールを奪えなかったイタリアのエースだが、後半開始早々に仕事を果たす。右サイドで抜け出したMFアントニオ・カンドレーバが切り返し、左足でクロスを上げる。ファーサイドへのボールに合わせたのはバロテッリ。189センチの長身加え、高い跳躍力からのヘディングでゴールに叩き込んだ。イタリアが再び勝ち越した。

 再び追う展開となったイングランドはルーニー、スターリッジの個人技でチャンスを作るがなかなかゴールを奪えない。暑さのせいか消耗も激しく両チームの出足も落ちてきた。19分には途中出場で活きのいいMFロス・バークリーがペナルティエリア左から中に切り込んで、シュートを放つ。32分はペナルティエリア右手前の位置で得たFKをDFレイトン・ベインズが直接狙う。いずれもゴールの枠をとらえたが、シリグが横っ飛びでファインセーブ。“代役”守護神の活躍でイタリアがリードを守る。

 スコアはそこから動かず2−1のままイタリアが逃げ切った。決勝点を挙げたエースのバロテッリ、チームを文字通り支配していた司令塔のピルロ、ブッフォンに負けず劣らずの存在感を見せたシリグ。役者が揃ったイタリアが、幸先の良いスタートを切った。

【イングランド】
GK
ジョー・ハート
DF
グレン・ジョンソン
レイトン・ベインズ
ガリー・ケイヒル
フィル・ジャギエルカ
MF
スティーブン・ジェラード
ジョーダン・ヘンダーソン
→ジャック・ウィルシャー(73分)
ダニー・ウェルベック
→ロス・バークリー(61分)
ウェイン・ルーニー
ラヒーム・スターリング
FW
ダニエル・スターリッジ
→アダム・ララーナ(80分)

【イタリア】
GK
サルバトーレ・シリグ
DF
マッテオ・ダルミアン
ジョルジョ・キエッリーニ
アンドレア・バルザーリ
ガブリエル・バレッタ
MF
アンドレア・ピルロ
マルコ・ベラッティ
→チアゴ・モッタ(57分)
ダニエレ・デ・ロッシ
アントニオ・カンドレーバ
→マルコ・パローロ(79分)
クラウディオ・マルキージオ
FW
マリオ・バロテッリ
→チーロ・インモービレ(73分)

(文/杉浦泰介)