自分なりの日本代表を選ぶ、というのは、野球ファンなら誰にとっても楽しいものである。セカンドは菊池涼介(広島)なのか、山田哲人(東京ヤクルト)なのか。浅村栄斗(東北楽天)もありえる。4番は筒香嘉智(横浜DeNA)か柳田悠岐(福岡ソフトバンク)か、はたまた山川穂高(埼玉西武)か。いや内川聖一(福岡ソフトバンク)だと言う人もいるだろう。

 

 今、メジャーの選手は除外して考えているが(でなければ、真っ先に決まるのは4番ピッチャー大谷翔平だ)、国内の選手に限った場合、先発投手はほぼ100%意見が一致するのではないか。菅野智之(巨人)である。

 

 2年連続沢村賞、昨年は15勝8敗で最多勝。しかも10完投で、そのうち8完封。防御率2.14。文句のつけようがない。それにしても、今の時代に8完封はすごい。

 

 その菅野が自主トレではじめてブルペンに入った時のコメントがふるっている。

「今のところ目に見える課題が見つからないぐらい状態がいい」(「日刊スポーツ」1月30日付)

 

 要するに、もう課題はないと言っている。これは、たとえばイチローやダルビッシュ有がメジャーに行った時と同じような境地ではあるまいか。

 

 イチローはもし日本に残っていたら、10年連続くらいで首位打者を獲っただろうし、ダルビッシュも毎年最多勝だったかどうかはさておき、毎年、防御率1点台くらいの成績は残しただろう。

 

 このレベルに達した人の心境など、もちろん私には想像もつかないが、おそらく、毎年同じことの繰り返しで圧倒的な成績を残し続けても、たいして面白くはないだろう。やはり、みずからさらなる高みをめざして何かに挑むしかあるまい。

 

 菅野の場合は、このオフには、キャッチボールで、左足をゆっくり2度あげる2段モーションを取り入れたという。

<投球時の体重移動の向上が狙いで「横の時間を長く使うということが一番。ゆったり、力感なくというのがテーマ」>(同)

 

「横の時間を長く」という表現が、いいですね。ようするに、左足を上げて軸足(右足)にためた体重を、ステップして左足に移動させるわけだが、その間、体は打者に正対するのではなく横を向いている。この時間が長いほどいい、ということだろう。

 

 イチローが時折いう「野球は、相手にすぐ胸を見せる男はだめ」というのと、きっと通じている。ある種の極意に触れた言葉といえよう。

 

 奥義に近い感覚

 

 実は、似たような表現を聞いたことがある。日本ハムから東京ヤクルトに移籍した高梨裕稔である。2016年には10勝をあげて新人王に輝いた右腕である。

 

 もはや番組名は忘れてしまったが、たまたま彼のドキュメント番組を見ていると、山梨学院大時代の恩師・高橋一三さん(元巨人の左腕エース・故人)が、「横を長く」という趣旨の指導をしていた、ということだった(記憶で書いているので、細部は不正確です)。

 

 へえ、一三(「カズミ」と昔は誰もが呼びならわしていた)も面白い表現を使うものだな、と印象深かったのである。

 

 高橋一三という投手は大好きだった。と言うと、少年時代を過ごした広島では、友達から「あ、こいつ、実はカープじゃなくて巨人ファンだ」と指弾されるのだが、別にそういうわけではない。ただ、所属チームに関係なく、なぜか、生来、異形の選手に興味を惹かれた。

 

 高橋は、投手にしては珍しくいかり肩で、独特のフォームで投げた左腕だ。表情は、どこかはかなげだった。それを見ていると、なにか吸い込まれるような気がしたのである。ついでに、カープの選手についても言っておくと、昭和30年代、興津立雄が大好きだった理由は、おそらく、あの独特の体をくの字型にして構えるフォームにある。彼が打席に立つだけで、なんとも魅力的に感じたものだ。

 

 それはさておき、「横の時間を長くする」というのは、ピッチングの究極の極意の一つなのだろう。

 

 菅野は、そこにたどり着いて、しかも「力感なく」、強い球を投げようとしているという。「力感なく」というのも、いわば奥義に近い感覚だ。「脱力」といいかえれば、また、イチローの筋肉の使い方にもつながる。

 

 いずれにせよ、菅野は、おそらくはきわめて意識的に、前人未踏の境地に足を踏み入れようとしているのだ。

 

 もちろん、自主トレの状態がそのままシーズンに反映されるとはかぎらないが、今季、どこまでの投球を見せるのか、興味深いところではある。

 

 私的ラインアップ

 

 最後に、冒頭でふれたお楽しみの、私案を披露しておきましょう。あくまで、極極私的ラインアップだが(先発のみとする)。

 

ピッチャーは、菅野智之

1番 センター 秋山翔吾(埼玉西武)

3番 レフト 柳田悠岐

 まず、ここまでは決定。3番は左の最強打者であるべき、という主義なので。ここから考える。

 

 つまり、2番と4番は右打者にしたい。今は去年の成績で考えるしかないので、

2番 山田哲人(東京ヤクルト)

4番 ファースト 山川穂高

5番 DH 筒香嘉智

6番 ライト 鈴木誠也(広島)

 

 なんだか、力任せのオーダーになってきた。いちおう、ジグザグです。

7番 ショート 源田壮亮(埼玉西武)

8番 キャッチャー 會澤翼(広島)

9番 セカンド 菊池涼介(広島)

 つまりは、山田にサードを守ってもらいたい、ということだが無茶ですかねえ。それならば、2番サード浅村か。うーん。要するに、セカンド菊池をはずしたくないのです(笑)。

 

 ショートは、もちろん坂本勇人(巨人)もいるし、キャッチャーは、いまや、甲斐“キャノン”拓也(ソフトバンク)を選ぶほうが、常識的である。まあ、このあたりは趣味としか言いようがない。甲斐の肩より、會澤の常に狙い球を一発かましてやろうとする、あのスイングが好きなのだ。

 

 とはいえ、このオーダーは、単なるオールスターにすぎない。

 日本代表が、真にチームとして世界に挑むなら、もう少し、編成の方針が鮮明な人選でないといけないだろう。

 

 他競技だが、興味深い記事を立て続けにみつけた。

 まず、ラグビーイングランド代表監督(元日本代表ヘッドコーチ)エディ・ジョーンズ。

<私は武士道精神に着目し、「努力」「忠誠心」「信頼」という日本伝統の美徳を生かそうと考えた>(「朝日新聞」1月29日付)

 

 続いて、サッカー日本代表森保一監督。

<ベースをしっかり持ち、理想を持った上で、試合の中で現実と向き合って、選手たちにプレーしてもらいたい>(「朝日新聞」1月30日付)

 

 日本代表は、オールスターではない。勝つためのチームである。世界で勝つために、どのようなメンタリティの選手で編成するか、ポイントは、そこにある。

 

上田哲之(うえだてつゆき)プロフィール

1955年、広島に生まれる。5歳のとき、広島市民球場で見た興津立雄のバッティングフォームに感動して以来の野球ファン。石神井ベースボールクラブ会長兼投手。現在は書籍編集者。


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