豪華なものだな、と感心しながら眺めていた。北海道日本ハムの紅白戦である(2月16日)。なにしろ、先発が吉田輝星と柿木蓮。昨年夏の甲子園決勝、金足農業-大阪桐蔭の再現である。吉田は、大田泰示にセンターオーバーの大ホームランを浴びて、1回1安打1失点。外角やや甘めのストレートだったから、まあ、致し方ないだろう。

 

 と、思っていると、ずんぐりした打者が左打席に入る。清宮幸太郎である。そうだった。彼もまた日本ハム、一昨年のドラフト1位だった。この打席は、初球を強引に打って出てセカンドゴロだったけれども、紅白戦とは思えない華やかさだ。それもこれも、球団のドラフト戦略のたまものだろう(日本ハムのドラフトの近年の最大のヒットは、もちろん、大谷翔平を強行指名し、「二刀流」を提案して入団にこぎ着けたことである)。

 

 ちなみに、この日の吉田のストレートは、昨夏の甲子園で見せた、ぐいーんと目に見えてホップするような伸びではなかった。本人が、最後の打者・鶴岡慎也を三振に打ち取った低目のストレートが一番よかった、と言っていたが、つまりは、高めの伸びが今ひとつだったのである。これからあのえげつないほどの伸びを取り戻すのか、それとも、当面は昨夏の疲れから脱却できないのか、現時点ではわからない。

 

 だが、吉田の投手としての理想型は、清宮が打ちに行った高めのストレートで、空振りが取れるようになることではあるだろう。逆に清宮サイドからいえば、あのくらいのストレートは、ゴロではなく、少なくとも大きなフライまでは、確実に持っていかないといけない。

 

 さて、試合をよく見ると、浅間大基がサードを守っている。本来、外野手だけれども、今年から三塁に挑戦しているのだとか。彼もまた、横浜高のスターだった。打つことに関しては、プロに入ってもさして苦労はしないだろうと思っていたが、もう5年目になる。ちょっと体が細いのかなあ。

 

 回が進むにつれて、よく知らない選手が出てくる。まず、46番、田中瑛斗投手。2018年のドラフト3位。柳ケ浦高出身。右の長身投手で、本格派。腕が長くて、しなやか。ほう、なかなかきれいな投手がいるじゃないか。と思っていると、今度は50番、鈴木遼太郎投手。2018年ドラフト6位。東北学院大出身。同じく長身の本格派右腕である。そして、同じように手足が長く、しなやかなフォーム。

 

 鈴木は気に入った。剛速球ではないが、角度あるツーシームやカットボールが、コーナーいっぱいに切れていく。変化球を操っている感じがおもしろい。これはいけるぞ、と思っていたら、実はこの日は失点したのだが。でも、ボールに角度があるし、今季はある程度、活躍できるのではないか。覚えておこう。

 

 宝刀をとらえた非凡なバット

 

 つづいて、オープン戦にいこう。2月24日の広島-横浜DeNA戦。横浜の二番手で登板した左腕・今永昇太の出来が抜群だった。今永は177センチ82キロとのことだが、それよりも小柄に見える左腕である。しかし、この日のストレートは、まさにバッターを押し込むように伸びていた。解説の佐々木主浩さんは、ボールを前で(すなわち打者寄りで)放せるようになっている、と分析していたが、まさにその通りだろう。

 

 少しでも前でボールを放す、というのは、投手にとって基本中の基本だが、だからといって、すぐにできるものでもない。下半身の力とか、体重移動とか、条件がそろわないとできない。今永にしても、4勝11敗におわった昨年は、この日ほど前で放せていなかったはずである。だから、精彩を欠いたのだ。ここには、投手の難しさが象徴的に表れている。

 

 この試合、まず輝いたのは今永だったが、終盤に、ひときわ目立つ活躍をした選手がいる。広島のドラフト1位・小園海斗である。

 9回表、DeNAはクローザー山﨑康晃が登板する。無死1塁となって、迎える打者は小園。

 

 山﨑とて、話題の高卒ルーキーに打たせるわけにはいかない。

 初球は、外角に伝家の宝刀ツーシーム。これが鋭く落ちて、あえなく空振り。このとき、小園は思わずびっくりしたような表情をしている。きっと、見たこともない変化をしたのだろう。

 

 2球目。山﨑は再びツーシームを投げる。高校生、打てるものなら打ってみろ、という心境だろう。ただし、初球よりもやや甘くなった。その落ち際を小園のバットが捉えると、打球はレフト線に落ちるヒットになった。

 

 いくらやや甘くなったとはいえ、初球を見る限り、ふつうは2球目も空振りである。それに対応して、ヒットゾーンに運んだというのは、もはや非凡としかいいようがない。

 

 「ドーン系」の真っすぐ

 

 もうひとつ、いっておきましょうか。

2月27日、埼玉西武-福岡ソフトバンクの練習試合で、ソフトバンクのドラフト1位・甲斐野央がデビューを果たした。最速159キロと言われる速球派の大卒ルーキーである。

150キロ超のストレートとフォークで、1回を三者凡退と無難に退けた。この人、もともと160キロに迫る速球とフォークが武器なので、クローザー候補と言われた投手である。その実力の片鱗を見せたというところだ。

 

 ソフトバンクがうらやましいですね。デニス・サファテが戻ってきて、去年のセーブ王森唯斗がいて、さらに甲斐野である。

 これに、左のリヴァン・モイネロとか下手投げの高橋礼とかいて、7、8、9回は万全といいたくなる(高橋は先発かも知れないが)。

 

 ただし、甲斐野については、対戦した西武・木村文紀のコメントが興味深い。

「真っすぐは力があった。ホップするサファテとはまた違うドーン系ですね」(「日刊スポーツ」2月28日付)

 

 つまり、伸びるのではなく、そのままドーンと真っすぐくる球質だと言っているわけだ。たとえば吉田輝星は、甲斐野ほどのスピードはないが、伸びはある。1年のトータルで見たときに、さて、どちらが活躍できるか。面白い問いである(吉田は、去年の疲れが取れて、本来の伸びを取り戻せれば、1年目から中継ぎでいけるのではないかと、個人的には思う)。

 

 年々、新しい戦力が出現する、それもまた、プロ野球の魅力である。そして、新戦力が台頭しないチームは、決して強くなれない。優勝することなど、とてもできない。どのチームにどれだけの新鮮な力が出てきているのか、3月はそういう視点でみてみたいものである。

 

上田哲之(うえだてつゆき)プロフィール

1955年、広島に生まれる。5歳のとき、広島市民球場で見た興津立雄のバッティングフォームに感動して以来の野球ファン。石神井ベースボールクラブ会長兼投手。現在は書籍編集者。


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