長野久義は、シート打撃でのライト前ヒットのボールを、わざわざマウンドまで行って投手クリス・ジョンソンからもらったそうだ。カープ移籍後“初ヒット”の記念球というわけだ。これを見て、観客が沸いたというから、相変わらず、この人の振る舞いは、心憎い。

 

 ドラフト1位の小園海斗は、同じくシート打撃で、大瀬良大地から“プロ初ヒット”を放った。大瀬良の武器である外角のカットボールをきれいにセンター前にはじき返したのだから、大したものである。

 

 小園は、菊池涼介のように、と言えばいいのか、山田哲人(東京ヤクルト)のように、と言えばいいのか、いずれにせよ、大きく足をあげてタイミングを取る。しかし、バットは鋭く、内側から出てくる。ある程度の打率は残せるのではないか。

 

 守備に関しては、たしかに、評判通り、ボールに対して、鋭く入っていく。高卒ルーキーとは思えないレベルといっていいのではないか。正直言うと、華麗さの中に雑さも少々まじっているような印象を受ける。もちろん、これからいくらでも洗練されていくだろう。

 

 ともあれ、今年のカープのキャンプは、なんといっても、長野と小園が目立っているようだ。移籍してきた話題のベテランとドラ1だから、当然といえば当然だし、カープのキャンプは順調に進んでいるということなのだろう。

 

 個人的には、今季のカギを握る選手の一人と考えている、前回触れた床田寛樹も、ここまでは故障もなく、順調にきているようだ。ブルペンの動画を見ても、スムーズに投げているように映る。なにしろローテーション入りも狙える先発左腕である。彼が使えるとなれば、非常に大きい。

 

 注目の若手捕手・坂倉将吾もそれなりに結果を出してアピールしているようだ。まあ、この時期ですからね。明るい話題であふれていないと困る。

 

 ただ、こうやって次世代を担う若手を見ていると、少しさびしくなる。中村奬成は何をやっているのか。ご承知のように、2月3日の打撃練習中に痛みを訴え、「右第一肋骨疲労骨折」で離脱したのである。その前には、昨秋のキャンプでも、左膝に自打球を当てて離脱するというアクシデントがあった。

 

 故障も実力のうち、と言ってしまえばそれまでだが、次世代のカープの布陣を考えたとき、彼は必要な人材ではないだろうか。

 

 まず、長打力をもっている。まだまだ潜在能力の域を出ないが、それは甲子園で証明済みだ。そしてあの肩。いまや日本一とも言われる捕手は、“キャノン”の異名を取る甲斐拓也(福岡ソフトバンク)である。捕手の強肩は魅力だ。しかも、中村は二塁だけでなく、一塁や三塁へも投げようとする。これがおもしろい。

 

 ただ、小園や坂倉とくらべると、明らかに体の線が細く見える。小園なんて、体つきは高卒ルーキーには見えない。だから、1年目からでもいかにも打てそうなのだ。

 

 中村はもちろん落ち込みもするだろう。しかし、よけいなお世話ながら、これをチャンスととらえて、今のうちにもっと体をつくってはどうか。

 

 あの丸佳浩だって、年々体が大きくなっていって、それにともなって、成績も上がっていった印象がある。巧打の高卒ルーキーが、超一流と言える域に達するまでに、おおよそ10年かかったのである。

 

 だから、慌てることはない。丸のように、年々、技術だけでなく、体の力も積み上げることだ。なぜなら、カープの未来予想図を考えたとき、扇の要にすわるのは中村だという構想は、持ち続けておいていいと思うから。

 

(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)


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