上田哲之「『3番と三塁』問題」
オープン戦が始まって、驚くことがけっこうあった。
まず、3番レフト坂倉将吾。3年目を迎える坂倉が期待の好打者であることはわかっている。体もがっちりしているし、たしかにスイングも鋭い。
しかし、いきなり3番ですかねえ。オープン戦はテストの場だと言われれば、それはその通りだが。
かと思うと、丸佳浩の抜けたセンターは、ほぼ当確かと思われた野間峻祥がスタメンを外れている。打撃不振なんだとか。
坂倉には気の毒なことに、オープン戦序盤は左投手と対戦することが多かった。見ていると、明らかに左対左は苦手にしているようだ。左投手のスライダーにまったく合わないシーンが何度かあった。
これは仕方ないことである。何度も打席に立って、慣れるしかない。松山竜平だって、出始めの頃は左投手を苦にしていたものだ。いまは全然苦手意識を感じさせないけれど。たとえば、引退した中日の岩瀬仁紀から特大ホームランを打ったこともありましたね。今の松山は、左投手にとっても、脅威に違いない。坂倉にも、ぜひそうなってほしいものだが、少なくとも、今はそうではない。
坂倉に結果が出なかったせいか、そのあと3番に入ったのは、西川龍馬である。たしかに、西川のバットコントロールには定評があるし、ここ一番での意外性も持ち合わせた好打者である。3番という考え方もありなのかもしれない。
だけどなあ。あくまで意外性であって、コンスタントに長打を期待できるわけではないですよね。
期待の若手になにいちゃもんつけているんだ、と怒られるかもしれないが、実は、3番は松山が入るものと思いこんでいたのだ。だから、どちらかというと、面食らっているというほうが当たっている。松山は、途中出場で、相変わらず強烈な当たりを放っている。特に、調子が悪いということではなさそうだ。
とすれば、去年まで成功した“タナ・キク・マル”を踏襲して、3番までは足が速くなくてはいけない、という首脳陣の方針なのだろうか。
しかし、丸がいなくなった以上、去年までの3連覇のチームとは別のチームを作らなければならない。3番は左の最強打者、4番は右の最強打者、というのが私の持論でして、そうなると松山じゃないの、と思ってしまうのだが。
ついでに言うと、5番は、今年はサビエル・バティスタがいい。去年は、一昨年のブレークに浮かれたか、下半身がぐらぐらしているようなスイングだったが、今年は違う。ビシーッとしっかりスイングしている。
松山、鈴木誠也、バティスタというクリーンアップは、迫力があっていいと思う。
3番と同じくらい焦点になっているのが、三塁手である。
緒方孝市監督は、おそらく安部友裕にしたいのだろう。ただ、安部も故障以来、いまひとつ打撃が安定しない。となると西川だが、守備に不安があるのは否めない。で、ここまで一軍にくらいついてきているのが、堂林翔太である。
考えてみると、堂林は3連覇が始まる前のスターである。プリンスはどこまで成長するのかと思ったら失速し、“キク・マル”コンビの台頭とともに3連覇の黄金時代が始まった。例年、オープン戦のこの時期くらいまで一軍でがんばるが、シーズンが始まると二軍が長くなる。それがパターンだが、今年は三塁にも再挑戦している。
なにしろ、2012年、統一球で飛ばないボールを使った年に、14本のホームランを打った男である。あの年に見た右中間への大ホームランは幻だったのか、と不思議な気持ちになる。
ただ、言えることは、去年より今年のほうが、少しだけ力強くなっているのではないか、ということだ。彼の中では、少し前進している。三塁、一塁、外野と便利に使われているうちに、2012年(の、特に前半)が甦る、そんな夢もあってもいい。なにしろ、今年のカープが、去年までとは違う時代に入ったのは確かなのだから。
(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)