準決勝のもう1試合では、アルゼンチンとオランダが激突する。W杯では過去に4度対戦しており、オランダが2勝1敗1分けとわずかに上回っている。ただアルゼンチンはアメリカ大陸で開催された2大会(78年アルゼンチン、86年メキシコ)で優勝を収めている。今大会も南米の地で6大会ぶりにベスト4進出を果たした。過去のデータだけでみれば、勝敗の行方はどちらに転んでもおかしくはない。その中で、ポイントなるのは、両チームのエースアタッカーのパフォーマンスである。

【スピードで局面打開するロッベン】

 オランダは準々決勝でコスタリカとのPK戦にまでもつれ込む死闘を制し、ベスト4の舞台に辿り着いた。同試合では、ルイス・ファン・ハール監督が延長後半終了間際に、PK戦に備えてGKを交代する奇策が的中した。クラブレベルで欧州を制した指揮官と、FWアリエン・ロッベンやMFウェズレイ・スナイデルなど前回大会で主力が多く残るオランダの経験値は4強の中ではトップと言っても過言ではない。

 コスタリカ戦のPK戦では、順にFWロビン・ファンペルシー、ロッベン、スナイデル、FWディルク・カイトが蹴り、全員が成功した。4人ともW杯は3大会目であり、今大会も経験に裏打ちされたプレーでチームを勝利に導いてきた。
 中でも動きがキレているのは、ロッベンだ。爆発的なスプリントで相手を置き去りにし、ドリブルを開始してもそのスピードが落ちることはない。GLのスペイン戦では、サッカー史上最速の時速37キロを記録したシーンもあった。準決勝でも、ロッベンのスピードが局面を打開し、オランダにチャンスをもたらすだろう。

 守備面でも明るい材料が出てきた。負傷で別メニュー調整が続いていたMFナイジェル・デ・ヨングがチーム練習に合流したという。潰し役のボランチがアルゼンチン戦に出場できれば、相手の絶対的エースであるMFリオネル・メッシを抑えるひとつの手段になるだろう。

“オレンジ軍団”悲願の初優勝へ、ファイナルへの切符を確保できるか。

【周囲を生かし、周囲に生かされるメッシ】

 ベスト8でベルギーを破り、6大会ぶりのベスト4進出を決めたアルゼンチン。だが、同試合でMFアンヘル・ディ・マリアが右太ももを痛めて途中交代し、オランダ戦は欠場が濃厚となった。メッシとともに攻撃を牽引してきたディ・マリアの不在は痛い。

 代役にはFWセルヒオ・アグエロの出場が見込まれている。アグエロはGLで左太もも肉離れを発症したが、すでにフルメニューをこなすまでに回復。代表でメッシとのプレー経験の長いアタッカーの復帰は心強い。しかし、スタメンか途中出場かの起用法は不透明で、アグエロに100パーセントのパフォーマンスを期待することは難しい。やはり、アルゼンチンの命運はエースの出来にかかっている。メッシが持ち前のドリブルで相手守備陣を切り裂き、シュートもしくは、マークを引きつけておいてからのパスでチャンスを創出できるか。また彼がボールを持った時に、周囲の選手がパスコースをつくってメッシへの警戒を分散させることも重要だ。

 守備陣は攻から守への切り替えの速さを徹底しなければならない。裏へボールを出されれば、ロッベンとのスピード勝負が待っている。ボランチ、最終ラインの選手は常にロッベンの動きを把握し、ボールを奪われた瞬間にスペースをケアしなければならない。

 アルゼンチンは南米勢最後の砦として、3大会連続の欧州勢決勝を阻止したいところだ。

(鈴木友多)