菊池涼介はこう言ったそうだ。

「この敗戦を生かすも何も、やるしかない」(「日刊スポーツ」4月11日付)

 

 まったく、その通りだ。

 4月10日の東京ヤクルト戦は、無惨な結果に終わった。思い出すのも不愉快でしょうが、一応振り返ると、3-3の同点で迎えた延長10回表、カープはなんと12失点して、3-15で敗れたのである。12点は、延長イニングの史上最多得点だという。

 

 12点のうち、中﨑翔太が5失点、中田廉が7失点。もはや、開いた口がふさがらない。

シーズン終了後に今季を振り返るとき、必ず語られることになる試合だろう。なんらかのターニングポイントになることは間違いない。

 

 その前の2試合もひどかった。4月7日の阪神戦は0-9の完封負け。9日のヤクルト戦は1-10の大敗。先発投手は打ち込まれ、中継ぎは失点を重ね、打線はさっぱり打てない。

 

 とくに、クリス・ジョンソンは心配だ。オープン戦も大荒れだったが、あのときの捕手は坂倉将吾だった。ご承知のように、彼は石原慶幸がお気に入りである。昨年は、確か全試合、石原とのバッテリーだった。しかし、今年はチーム方針が変わったようで、オープン戦でも、會澤翼と組んだりしていた。

 

 だから、9日は、首脳陣がジョンソンに配慮したのだろう。捕手は石原だったのだ。それで、3回9安打6失点である。

 武器である右打者のインコース攻めは、この日も繰り出していた。ところがたとえばウラディミール・バレンティンなど、そこをうまくしのいで、最後に投げた外角低めのチェンジアップを拾ってセンター前に運んでいた。

 

 うーん。石井琢朗コーチが、バレンティンに「がまん、がまん。コンパクトに!」と言い聞かせている光景が目に浮かぶようだ。もちろん、これは、私の妄想ですが。

 

 石井コーチのカープ在籍時代からの打線の合言葉だった「後ろへつなぐ意識で」というのも、現実がうまく回らないと、すっかり影をひそめたように見えてしまう。別に、つなぐ意識が消えたわけではないのだろうけれど。

 

 ただし、ここでいくら嘆いても始まらない。菊池の弁にあるように、「やるしかない」のだから。

 打線は、まさに「つなぐ意識」でやってもらうしかない。たとえば、野間峻祥がぎりぎりの内野安打で出たのを鈴木誠也が打って返すのが、突破口となるように。

 

 問題は、打線だけではない。たとえば、中﨑の今季初セーブ(4月3日、中日戦)をごらんになっただろうか。最後はたまたま正面に飛んだけれども、いい当たりをされたことは事実だ。

 

 10日の試合に戻ると、確かに中﨑には、菊池の失策、松山竜平の二塁悪送球もあって、不運な面もあった。しかし、相変わらずストレートも変化球も高め、真ん中に集まりがちだし、さほどの球威も感じない。だから、先頭の中村悠平にいとも簡単にセンター前に打たれてしまう。すべてのはじまりは、このヒットからである。

 

 ひとつの大きな問題は、今後、このまま「クローザー・中﨑」は続けられるか、ということである。仮に結果が出ない場合(もちろん、結果が出ることを祈るが)、最有力候補はヘロニモ・フランスアということになるだろう。しかし、そのフランスアが、いまのところ、去年の状態にはほど遠い。10 日の8回表の登板をみていると、徐々に球威を取り戻しつつあるようには見えたが。

 

 今季、チームは否応なく、大きな変革に取り組まなくてはならない。その変革の中には、セットアッパー、クローザーの新たな確立という課題も含まれるのである。誰を、どのポジションで育てるのか、少なくとも、その構想は、いくつか持っていなくてはならない。

 

 3番・5番問題も同様だ。結局、オープン戦では試してもみなかった「3番・野間」が、なんとか結果を残すスタートになった。だからといって、これが1年間続く保証はないし、オープン戦で試しもしなかった方法が、たまたま、開幕当初うまくいったというのは、いささか、周到さを欠くのではないか。打線を考えると、鈴木の後を打つ5番が、カギをにぎるのは、明らかだ(仮に3番野間が固定なら、5番はバティスタだと、個人的には思いますが)。

 

 バティスタも坂倉も、あるいは野間も西川龍馬も、さらにいえば小園海斗も、みんな育てながら勝たねばならない。ピッチャーでいえば、岡田明丈をどう安定させるか、ようやく1軍にあがったアドゥワ誠、あるいは2軍の先発投手・遠藤淳志(彼は将来、ローテーションを担うと見る)、等をどう育てるか。

 

「育てながら勝つ」それが今年のミッションである。

 

(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)


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