31日、日本サッカー協会はJFAハウスで技術委員会を開いた。今回は原博実専務理事兼技術委員長(強化)、山口隆文技術委員長(育成)ら技術委員に加え、上川徹審判委員長、野田明美女子サッカー委員長など様々な分野から識者も参加。ブラジルW杯の総括などを踏まえて、各分野で日本サッカーを強くするための施策や方向性を議論した。
「選手にたくましさを感じた」
 上川審判委員長は、レフリー目線で見たブラジルW杯の感想をこう述べた。各レフリーの判定基準や懲戒罰基準に差がある中で、出場国の選手は試合を担当したレフリーの基準に合わせてプレーしていたという。また、多くの選手が1対1を挑むという点にも上川審判委員長は注目していた。
「特にPA内でチャレンジするプレーが見られた。相手との接触を逃げない。今後、さらにこういうプレーが多くなっていくことを考えれば、我々としても接触プレーに対してさらに正しい、的確な見極め方を高めていかないといけない」

 審判のレベルも世界基準であれば、選手たちはそれを体感できる。上川審判委員長は「そういうたくましさを身に付けるには育成年代のプレーが重要になってくると思う。そうなってくると、トップの審判員だけを育てるのではなく、育成年代のゲームを担当する審判員に対して、技術サイドが求めること共有しながら指導していく必要がある」と日本サッカー全体でのレフリングレベルを向上させていく考えを示した。

 山口技術委員長の掲げるテーマにも、「たくましい」というキーワードが入っていた。
「今回のW杯を見た中で、たくましい個、自立した個が組織的かつハードワークしなければW杯を手にできないとわかった。育成担当としてはたくましい個を育てるという一言に尽きる。たくましい個というのは、ピッチでしっかり自分で考えて行動がとれる、堂々とピッチでプレーできる個だ」

 そのためには「日本中のトレーニングの風景を変えていかないといけない」と語気を強めた。
「特異性の原則というのがあり、ダラダラした練習、心拍数が非常に低い練習であれば体が馴染んでしまう。そういった意味で、(アルベルト)ザッケローニ前監督が言ったようにインテンシティー(強度)とクオリティーを上げていかないといけない。世界基準に沿って、常に集中したトレーニングをやらなければいけないと考えている。そして、(指導者には)選手へのアプローチとして一緒になって考えていく、考えさせる、思考を停止させないようなコーチングをより強く発信していきたい」

 育成年代の強化という点では、中西大介Jリーグ常務理事がW杯で6大会連続ベスト16進出を果たしたメキシコの育成プログラムを引き合いに出し、国際経験増加の必要性を説いた。
「メキシコは、北中米カリブ海という欧州でもなく南米でもない地域で、どうやって世界に追いつくかを工夫してきた。メキシコはたとえば9歳でクラブに入団した選手に、18歳でプロになるまでに約100試合の国際試合を経験させるようにプログラムをつくっている。世代別代表に選ばれるような選手は130試合ほどになる。最初は隣国の米国にいって、ホームステイし、試合では違う言語のレフリーとコミュニケーションとりながらプレーすることを9歳くらいから始める」

 またブラジルやメキシコの同年代の選手とも頻繁に行っているという。メキシコはブラジルW杯で、開催国・ブラジルに完全アウェーの中で引き分けを演じた。中西常務理事は「育成年代の経験が強豪国へのコンプレックスをなくしているのでは」と分析する。原専務理事によれば「来年、日本で16歳以下の国際大会を協会主催で開く考えもある」と語り、育成年代の国際経験増加へ意欲を見せた。

 中西常務理事は「本当に世界で戦える選手をJリーグで育てる時には、今のカレンダー、試合数は適切かを考えないといけない」と語る。原専務理事も「欧州チャンピオンズリーグなどに出場するチームは年間70試合ほどを戦うこともある。その中で、どこを優先し、どうローテーションするか。アウェーだったら引き分ければいい、ホームはこう戦うという中でメリハリをつけている」と海外は真剣勝負を数多くこなしていると強調。そして「我々もまずは日本サッカーのカレンダーをどう整理するか。これまで先送りにしてきたが、早急に手を打つ」と日本サッカーの日程の抜本的に見直すことを示唆した。