第423回 故障者続出で“野戦病院状態”のヤンキース 浮上のポイントは?
先発 ルイス・セベリーノ
抑え デリン・ベタンセス
捕手 ゲイリー・サンチェス
内野手 グレッグ・バード、ディディ・グレゴリアス、トロイ・トロイツキー、ミゲール・アンドゥハー
外野手 アーロン・ヒックス、ジャンカルロ・スタントン、ジャコビー・エルスベリー
こんなメンバーが揃ったチームだったら、優勝が狙える強豪だと誰もが思うだろう。しかし、現状でここに挙げたヤンキースの選手たちのすべてが負傷者リストに入っているというのだから、驚くばかりである。
「“次の選手の出番だ”という私の言葉にみんな飽き飽きしているかもしれない。しかし、本当にそうするべき時なんだ」
アーロン・ブーン監督はそう述べてはいたが、どんな層の厚いチームでもこれほどのケガ人はこらえきれるものではない。
案の定、ヤンキースも4月18日時点で8勝10敗と停滞。16日から宿敵レッドソックスに2連勝し、息を吹き返すかと思えたが、なかなか波に乗り切れない。今季は優勝候補の筆頭に挙げられたものの、ア・リーグ東地区で首位を走るレイズにすでに5.5ゲーム差をつけられてしまった。
こんな厳しい状況下で、健闘しているのが先発投手陣だ。もともと強力打線、ブルペンに比べて先発は層が薄いといわれ、春季キャンプ中にエースのルイス・セベリーノが離脱した時点では暗雲が漂ったかと思われた。しかし、蓋を開けてみれば、4月18日のロイヤルズ戦を迎えるまでの17戦中11戦で先発投手たちは2失点以内と安定した働きを続けている。
先発機会 防御率
田中将大 4 3.22
ジェームズ・パクストン 4 3.91
J.A.ハップ 4 7.23
CC・サバシア 1 0.00
ドミンゴ・ヘルマン 3(4登板) 2.37
先発ローテーションに名を連ねる5人の中ではハップの数字の悪さが目立つが、17日のレッドソックス戦では7回途中まで3失点と復調気配だった。36歳の左腕ハップも実績のある選手だけに、大きな心配は必要あるまい。
先発陣の踏ん張りがカギ
田中、サバシアは安定感があるし、マリナーズから移籍した快速球左腕パクストンも好調時には手のつけられないような投球で魅せる。セベリーノの代役としてローテ入りしたヘルマンもポテンシャルが魅力。このまま順調ならば、戦前の予想以上に上質なローテーションになっても不思議はない。
「人の出入りはあるけど、可能な限り埋め合わせていくだけだ。ケガ人たちに早く戻って欲しいけど、現在行われるゲームも重要。乗り切らなければいけない」
ハップの言葉通り、例えケガ人が多くとも、現時点で上位から大きく引き離されるわけにはいかない。幸いなのは昨季王者のレッドソックスがヤンキース以上のどん底に沈んでいることだが、同地区内のレイズが充実しているだけに、ある程度のペースで勝っておくに越したことはない。
そのためには、もうしばらくは先発ローテーションの頑張りが不可欠になる。現在の打線は下位打線がかなり弱く、サンチェス以外の主力打者は復帰までにもう少し時間がかかりそうなだけに、早いイニングからの大量得点は望み薄。スタントン、グレゴリアス、ヒックスといった中軸が復帰するまで、先発投手に継続して試合を作ってもらう必要があるのだ。
チーム内でやや不安視された部分が早々と頼りにされる形になったのは意外に思えるが、もともとヘルマン以外の4人の先発投手はすべて昨季も150イニング以上を投げて防御率3点台だったことを見過ごすべきではない。
近年のMLBではブルペンの重要度が増す一方だが、先発がしっかりしているチームは大崩れしない。田中、パクストンを中心とする投手陣が力を発揮すれば、ヤンキースも一定以上の勝率は稼げるはずである。同時にクリント・フレイジャー、ヘルマンのような若い選手たちが台頭し、少しずつでも上り調子でケガ人たちの復帰を待つ流れになれば……。
開幕ダッシュに失敗したとはいえ、ヤンキースが依然として優勝を狙えるだけの戦力を有していることに変わりはない。足りない部分があれば、シーズン中に補強できるだけの資本もある。夏場以降の勝負の季節を迎えるまで、今はなんとか我慢するべき時。まずは先発投手陣が野戦病院状態のチームを支えてくれれば、光明は少しずつ見えてくるはずである。
(故障箇所/予想される復帰時期)
先発
セベリーノ(右肩/7月)
抑え
ベタンセス(右肩/6月)
捕手
サンチェス(左足ふくらはぎ/4月下旬)
内野手
バード(左足/5~6月)
グレゴリアス(右肘/6~8月)
トロイツキー(左足ふくらはぎ/5~6月)
アンドゥハー(右肩/5月 ※手術を受ける場合は来春)
外野手
ヒックス(腰/5~6月)
スタントン(左上腕/4月下旬~5月)
エルスベリー(左股関節/未定)
杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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