山口翔のプロ初登板を見ましたか? 5月7日の中日戦。試合自体は、中日・大野雄大に3安打完封を許し、0-6といいところ無く敗れたので、見るべきものといえば山口の初登板くらいだった。

 

 山口は熊本工出身の2年目右腕。カープがドラフト2位で指名したとき、右ヒジがやや下がり気味のところから投げてくる印象があって、正直言えば、指名には懐疑的であった。

 

 ただ、この日見ると、印象はまるで変わっていた。

 結構高い肘の位置から、角度のあるストレートを投げる。高校の時の印象は幻にすぎなかったのかもしれない。

 なによりも、低めのストレートに伸びがある。腕を鋭く振れている。いけるんじゃないですか、彼は。

 

 というのも、体つきも、入ってきたときとはまるで違う。明らかに、体に幅ができ、特に上半身が大きくなったように見える。

 

 実は、これ、大事なことである。

 かの鈴木誠也も、2年目から3年目に向かうオフで、一気に体ができた。これが彼のブレイクにつながった。

 

 今年ブレイクした床田寛樹も、明らかに1年目より体が大きくなっている。トミー・ジョン手術のリハビリの間のトレーニングで15キロ体重が増えたのは、いまや有名な話だ。

 

 つまり、どこかのタイミングで、体をプロ仕様に変えることのできた選手は、ブレイクする可能性が高まるのだ。

 

 山口にもどると、もちろん、力んだときに高めに抜けるとか、少し甘く入ると簡単にもっていかれるとか、課題はある。それはいいじゃないか。

 

 この日で言うと、ダヤン・ビシエドに打たれたのは、インコースのストレートがやや高く甘かった。しかし、そのあと売り出し中の阿部寿樹を見逃し三振にとったアウトローのストレートなど、コーナーいっぱいに、グイーンと伸びていた。149キロ。

 

 変化球はスライダーとたまにツーシームという感じのようだが、少なくとも、彼のボールは新鮮で、生き生きとしていた。

 

 去年の夏場に、初登板の長井良太を見たときも、同じような新鮮さを感じて、将来のクローザー候補だと騒いだのだが、うまくいかなかった。山口はなんとか、ものにしてほしい。

 

 というのも、今のカープに必要なのは、チームを変える新戦力の台頭だからだ。

 

 4連覇を目指すカープが、出だしで大きく躓いたのは、ご承知のとおりだ。オープン戦の間に、丸佳浩が抜けた3番問題を解決できなかった首脳陣にも責任はある。加えて、不動の1番打者のはずだった田中広輔の不振。これで得点力が下がり、投手陣では、クリス・ジョンソンの不振で、先発が不安定になった。

 

 まあ、とりあえずの原因を挙げれば、こんなところだろう。

 しかし、3連覇を達成したチーム全体の“勤続疲労”もあるに違いない。

 打破するには、新戦力が台頭して、チームを活性化するしかないのだ。

 それが証拠に、今シーズン、ここまでのカープを支えているのは、事実上1年目といってもいい床田である。

 

 その意味で、山口の初登板は朗報である。

 ところで、小園海斗は何をしているのだろう。ウエスタンで、2割に満たない打率を記録している(5月8日現在)。オープン戦のカープが強かったのは、半分は小園のおかげである。

 

 次々に新戦力が出てくることが、4連覇という、途方もない偉業への近道だと思うのだが。

 

(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)


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