栗田工業ウォーターガッシュは昨季、ジャパンラグビートップチャレンジリーグで4位に入り、トップリーグ入れ替え戦に回った。昇格こそ叶わなかったが、トップチャレンジリーグ参戦1年目での好成績に今季への期待が高まる。その栗田工業に新戦力が加わった。注目は22年ぶり全国大学選手権を制した明治大学出身のスタンドオフ(SO)忽那鐘太だ。

 

 

 

 

 

 

 今季初の対外試合となった5月18日のヤクルトレビンズ戦に早速、SOでスタメン出場を果たした。チームは31-34で敗れたものの、忽那はトライを演出する場面もあった。約80分。フルタイムでの起用にチームからの期待値の高さを窺わせた。積極的に声を出し、周囲と頻繁にコミュニケーションを図っているように映った。後半早々、奪ったチームのトライに喜ぶ姿に彼のチームプレーヤーとしての矜持を見た気がした。

 

 忽那が本格的にSOを任されたのは高校2年からである。それ以来、彼はスタメンSOを意味する背番号10にこだわりを見せる。

「ゲームコントロールとエリアマネジメントが自分のストロングポイントだと思います。周りを生かすのが好き。自分でトライを獲ったときはもちろん気持ちが良いですが、パス一本でトライを獲るのが理想ですね」

 自らの強み、理想のプレーからも司令塔タイプということが見て取れる。

 

 パスといってもフラットパス、スクリューパス、飛ばしパス、キックパス……選択肢は無数にある。それゆえに、プレーの中で意識しているのは「コミュニケーション」だ。

「そこが僕の強み。いいアタックするためには早いセットが大事です。いち早くスペースを見つけ、早く情報を得る。それをいかに早く味方に伝えることを意識しています。指示を出すのが僕のプレースタイルです」

 

 SOをはじめラグビーにはピッチを俯瞰できる選手がいると言われるが、忽那は「僕はそこまですごいプレーヤーじゃないです」と笑う。

「そこはコミュニケーションで補う。僕は前のFWをどう動かすか、裏のスペースをどう突くかを考えています。外のスペースはウイングの方が見えているので、役割分担じゃないですが、自分がカバーできない部分は味方にフォローしてもらっています」

 

「すべての項目で高いレベル」

 

 スタッフ陣も忽那に大きな期待を寄せている。森洋三郎BKアシスタントコーチは「“ここがダメ”という点がない」と高く評価する。

「スキル、パス、キック、ディフェンスすべての項目で高いレベルにあります。バランスがよくゲームコントロールができる。インパクトプレーヤーではないので1人で突破するタイプではありませんが、劣勢でもいい判断ができる選手です」

 

 森コーチは現役時代、スクラムハーフ(SH)が主戦場だった。SOとSHはハーフ団を構成する“切っても切れない仲”である。

「彼はSHからすれば組みやすいタイプのSOだと思います。よく声を出していますし、意志表示がわかりやすい。何をしたいかを明確に伝えているんです」

 忽那は先述したように味方とのコミュニケーションを大切にしている。コミュニケーション能力の高さは森コーチも認めるところだ。

 

 昨シーズン、森コーチはコーチングを学ぶため、数日間ほど明大の練習に参加した。その時の忽那の姿勢に目を見張ったという。

「練習中に何が良くて、何がダメなのか。どこを改善すべきかを、きちんと考えられる選手です。非常に明るく、ムードメーカー的な部分も持っている。いいプレーが出れば盛り上げ、彼の声で練習がネガティブなものにならなかった」

 

 忽那自身、ポジティブ思考である。慣れない環境にも順応できるのも強みだ。愛媛から島根。島根から東京。住むところが移っても苦にしなかった。それは立場が学生から社会人へと変わっても同じだ。

 

 忽那がラグビーを始めたのは5歳からだが、既に楕円球には触れていた。3人兄弟の末っ子。4歳上の幹太、2歳上の健太はいずれもラグビーを始めていた。彼が2人の兄に続くことは必然だったのかもしれない。

 

(第2回につづく)

 

忽那鐘太(くつな・しょうた)プロフィール>

1997年3月19日、愛媛県松山市生まれ。5歳でラグビーを始める。城西中を経て島根の石見智翠館高に進学。全国高校ラグビー大会(花園)には3年連続で出場した。花園では1年時がベスト8、2年時はベスト16入りを果たした。3年時はキャプテンを務めた。高校卒業後、明治大学に進み、1年時からAチーム入り。4年時には主力として全国大学選手権優勝に貢献した。今年4月、栗田工業に入社した。身長178cm、体重83kg。ポジションはスタンドオフ。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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