2017年の第4回WBCで侍ジャパンを率いた小久保裕紀は通算2041安打、413ホームランの、平成プロ野球を代表する右の強打者である。ホークスとジャイアンツで4番を打った。

 

<この原稿は2019年6月7日号『漫画ゴラク』に掲載されたものを一部再構成しています>

 

 その小久保がNHKの番組で広島の4番・鈴木誠也について感想を求められ、「(キャンプでは)ひとりだけ打球音が違った。金属音に近い音」語っていた

 

 快音を響かせる――。プロ野球の書き手は、しばしばこういう表現を用いる。

 

 では、具体的に「快音」とは、どういう音か。キーン、カーン。文字にするとこんな感じか。

 

 要するに「高音」である。小久保の表現を借りれば、「金属音に近い音」である。

 

 詰まった場合はガツーン、ゴツーンとなる。球威に押され、ミートポイントがズレている証拠だ。

 

 鈴木の打球は、軽く振っているように見えるにもかかわらず、きれいなスピンを描いてスタンドにまで飛んでいく。ライト方向への打球も失速しない。若き日の“ミスター赤ヘル”山本浩二を見ているようだ。来年の東京オリンピックでは、侍ジャパンの4番候補のひとりだろう。

 

 開幕前は昨季までひとつ前(3番)を打っていた丸佳浩が巨人へFA移籍したため、その影響が鈴木にも及ぶのではないかと心配された。

 

 レジェンド江夏豊の名言、「最強打者はO(王貞治)でもN(長嶋茂雄)でもなくON」を持ち出すまでもなく、3・4番はセットで考えるべきである。

 

 というのも、62年から13年連続でホームラン王に輝いていた王が、自らの代名詞ともいえるタイトルを阪神の田淵幸一に明け渡した75年といえば、長きに渡ってコンビを組んでいた長嶋が監督に就任した年でもある。

 

 それまでOとNに分散していたマークが、Oひとりに集中するようになったことも不振の要因のひとつに数えられた。

 

 ところが翌76年、日本ハムから首位打者7度の張本勲が移籍し、OH砲を結成すると、再び王は輝きを取り戻す。76年、77年と連続してホームラン王に就いたのである。かくも“相棒”の存在は大きいというわけだ。

 

 鈴木に話を戻そう。丸という先輩格の“相棒”を失いながら打率3割4分1厘(リーグ1位)、15ホームラン(同3位)、41打点(同3位)(記録はいずれも6月5日現在)は立派である。赤ヘルのリーグ4連覇は、この男のバットにかかっている。

 

(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)


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