わたしも昔はよくやった。やらかしていた。

 

「印象に残った選手は誰ですか?」

 

 日本代表の試合だけではない。ガンバ大阪を担当していた頃は、対戦相手の監督が外国人だと、まず間違いなくこの質問をぶつけていた。

 

 穴があったら入りたい。なかったら、掘ってでも入りたい。なぜかつてのわたしは、こんな質問を連発していたのか。自分の判断に自信がなかったからだった。自信がないから、外国人サマにお伺いを立て、自分の中で評価していた選手の名前があがると安堵し、ほくそえむ。心根にあったのは姑息と卑屈。まったく、情けないといったらありゃしない。

 

 しかもこの質問、日本人監督や格下のチームの監督にはぶつけなかったのだから、我ながらタチが悪い。たとえば、W杯のアジア1次予選で日本が圧勝しても、わたしは聞かなかった。本来であれば、日本が輝いた試合こそ、相手にとって印象に残る選手は多かったはずなのに。

 

 先のアジアカップ。カタールのアル・モエズは凄かった。なぜ覚えているかといえば、やられてしまったから。じゃあ、それまでに日本が倒したチームの中で、印象に残った選手は? もし、対戦国のジャーナリストから誰か名前をあげてくれと言われたら?

 

 わたしだったら苦笑して、国際親善のために無理やり答えをひねり出す。あたかも相手のことも十分に観察していたようなフリをして。簡単なことではない。それが、4-0で圧勝した試合のあととなればなおさらだ。

 

 というわけで、聞かれる側からしたら困惑以外の何物でもない質問が、チリ戦のあとではいろんな記者が、いろんなチリ人にぶつけたようで、同じ道を通り、卒業したつもりになっている人間としては汗顔の至り。

 

 いずれ、あるいはもしかして、日本が世界に冠たるサッカー大国となり、世界的スターを何人も抱えるようになったとしたら、誰もこんな質問はしなくなる。ドイツ人は、ブラジル人は、フランス人は、他国の人間に評価してもらわなくても、自分たちの宝の価値を知っている。そして、その自信が、次なる宝を生んでいく。

 

「日本はW杯に出られると思いますか?」

 

 これもまた、わたしがよくした質問だった。だが、令和の時代に同じ質問を外国人にぶつける日本人がいるとは考えにくい。日本人はメジャーで活躍できますか? 日本人でも100メートルを9秒台で走れますか? いまでは当たり前のことが、まだ当たり前でなかった時代、わたしは、記者たちは、外国人に聞かずにはいられなかった。

 

 日本のサッカーファンは、W杯に出場する日本代表には慣れた。だが、個の力で世界に君臨する日本人選手は見たことがない。だから不安で、だから外国人の評価を聞きたがる。

 

 久保なのか、安部なのか。それとも別の誰かか。近い将来、日本サッカーが世界的スーパースターを輩出することを、わたしは確信している。

 

 何年か、何十年か経って、外国人に久保の評価を求めていた時代が笑い話になることも。

 

<この原稿は19年6月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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