松田丈志(元競泳五輪代表)<前編>「池江璃花子は復活する!」
二宮清純 : 今回のゲストは競泳で2004年アテネから16年リオデジャネイロにかけてオリンピックに4大会連続で出場し、4個のメダルを獲得した松田丈志さんです。今回は焼肉屋『ドロップキック』で雲海酒造の『木挽BLUE』を飲みながら水泳界の話をうかがいたいと思います。まずはロックで乾杯です。
松田丈志 : 僕は宮崎県出身なので、雲海酒造のお酒はよく飲んでいます。『木挽BLUE』は家にも置いていますよ。ウン、相変わらず美味しいですね。
二宮 : 家では奥さんと一緒に?
松田 : そうですね。ただ、今は長女が1歳6カ月なので、しばらく飲んでいません。妻は芋焼酎が好きなんです。『木挽BLUE』は飲みやすく、いろいろな食事にも合いますから、お世話になっています。
二宮 : 後輩たちと“飲みニケーション”することはありますか?
松田 : ええ。そういった席では後輩の本音も出てくるので、悩みも聞ける。そういう時間は大事ですね。僕はアテネ五輪に出場するまで、他の選手とプライベートで食事に行ったりすることがなかったんです。アテネを経験し、“オンとオフの切り替えがうまい選手が結果を出せる”と気付きました。それ以来、他の選手と食事に行ったり、コミュニケーションを図る量を増やしましたね。
二宮 : それがご自身にもプラスになったと?
松田 : 腹を割って話すことで、自分の悩みを解決する糸口が見えることもあります。逆に後輩たちの話を聞き、新たな発見もある。プラスになることは多かったと思います。
二宮 : 今年4月の日本選手権はリオデジャネイロ五輪400m個人メドレーの金メダリスト萩野公介選手と、同代表の池江璃花子選手が欠場しました。世界選手権代表内定が少なかったのは、来年の東京五輪を意識し過ぎて固くなった選手が多かったのでしょうか?
松田 : いや、それはないと思います。今年は昨年と比べ、ほとんどの種目で派遣標準記録が上がっているんです。今年の日本選手権は大会全体の流れが悪かった。おっしゃったように萩野と池江のスター2人が不在で、なんとなく重たい空気が大会期間中、漂っていました。極端に悪いわけではないのに、2人がいないことで全体的に停滞しているイメージになってしまいましたね。
二宮 : オリンピックなどで競技の初日にメダルを獲る選手が出てくると全体が盛り上がるという話を聞きます。日本選手権でも、そういう全体の流れや空気に選手が乗っかる部分はあるんでしょうね。
松田 : それはあります。初めて出場したアテネ五輪の時は、“個人競技だし、チームの流れなんか関係ねえ”と思っていた部分が正直ありました。ところがアテネ五輪で北島康介さんが金メダルを獲った時、チームが一体となって応援し、皆が喜んでいる姿を見て、その考えが変わりましたね。メディアの側で大会を見るようになった今、なおさら、それを感じますね。
左右差が不調の原因
二宮 : 萩野選手はこの1年、スランプと言われるほど調子を落としています。
松田 : 僕はスランプだと思っていません。問題はモチベーションだけだと思いますね。
二宮 : 彼は初出場のロンドン五輪で銅メダルを獲り、前回のリオ五輪では金メダルを含む3個のメダルを獲得しました。リオで燃え尽きてしまった面もあると?
松田 : そうですね。彼は性格が真面目な分、休み方が下手だと思うんです。オリンピックが終わった後は4年間かけてモチベーションをググッと上げていくのが定石なんです。ところが萩野はプロスイマーになり、金メダリストとして周囲から大きな期待を寄せられていた。この2、3年は自分の本来のモチベーションと、周りに期待されている結果とのギャップの中でやっていたと思うんです。それを上手く自分でコントロールできれば良かったのですが……。あとはケガをしてしまったことも原因のひとつですね。
二宮 : あれは私もびっくりしました。4年前、合宿中に自転車で転倒し、右肘を骨折しました。リオ五輪後に手術したものの、右腕の可動域が狭くなったと言われています。
松田 : 肘が伸びる角度が違い、昔のような可動域は戻らないと思います。でも、そこは伸びなくてもいい範囲なんです。問題はそこではなく、左右が違うということです。
松田 : そこなんです。選手にとっては、左右差がものすごく気持ち悪く感じるんです。
二宮 : その違和感がメンタルにも影響を及ぼしていると?
松田 : はい。その中で結果も求められ、泳ぎ続けることに疲れてしまったのかもしれません。左右差を抑えるのは、すごく手間がかかることなんです。練習をすればするほど、左右の傾きが強くなる。そのバランスを戻すことを日々やり続けないといけない。地道でエネルギーがいるので、相当根気がいります。それでも萩野は1年あれば、ある程度の状態に持っていける力はあると思います。左右の違いと折り合いを付けながらやるのは大変ですが、頑張ってほしいですね。
二宮 : 萩野選手のライバル・瀬戸大也選手は今年の世界選手権に出場します。リオ五輪で萩野選手が金メダルを手にした400m個人メドレーでは銅メダルでした。
松田 : アイツはリオで悔しい思いしているので逆にモチベーションが高いですね。6月にイタリアの大会で、自己ベストを出しました。センスに関しては萩野や、リオ五輪銀メダルリストのチェイス・カリシュ(アメリカ)の方がある。それを彼が努力でどこまで上回れるかですね。戦い方としては瀬戸が完璧なレースをして自己ベストを大きく上回ることが条件となります。まず今年の世界選手権でカリシュに勝つことができれば、流れを引き寄せられると思います。
強敵揃いの海外勢
二宮 : なるほど。松田さんの得意種目だったバタフライはいかがでしょう?
松田 : 200mバタフライはハンガリーのクリストフ・ミラークが優勝候補の本命ですね。自己ベストが1分52秒台。現役選手では最速のタイムです。彼のすごいところは、100mも速いんです。日本の200mバタフライの選手は僕もそうでしたが、瞬発力はそこそこで持久力で勝負するタイプが多い。 ミラークは100mも速いからスピードがあり、持久力もある。そういう選手は泳ぎの引き出しが多くなるので、レース展開を自分でコントロールできる。日本選手が勝つのは相当大変だと思います。
二宮 : 日本のバタフライ勢は松田さんから見て、伸び悩んでいると感じますか?
松田 : そうですね。自分の話で恐縮ですが、ロンドン五輪の200mバタフライ決勝で僕が出したタイムは、リオ五輪の優勝タイムより速いんです。日本記録は僕が2008年の北京五輪で出した1分52秒97を更新できていません。世界記録はオリンピック通算最多メダル獲得者のマイケル・フェルプス(アメリカ)が2009年に出した1分51秒51。それをミラークが更新する可能性はあると思います。瀬戸も頑張っていますが、まだ自己ベストは1分54秒台を切っていない。今年の世界選手権ではメダル争いに絡めるかどうかというところでしょうか。
松田 : ロシアのアントン・チュプコフがすごく強いです。現時点では日本の渡辺一平よりもチュプコフの方が二枚くらい上手ですね。
二宮 : 渡辺選手は世界記録保持者ですが、それでもチュプコフ選手の方が二枚も上手?
松田 : 世界記録(2分6秒67)は渡辺が持っていますが、チュプコフはそこより0コンマ数秒遅い。しかしチュプコフは泳ぎ方の引き出しがたくさんあるんです。ミラーク同様にチュプコフはいろいろなパターンで、好タイムを出せる。だから突き抜けた時は一気に渡辺の記録を更新する可能性を秘めています。ただ渡辺もベストのレースをできれば金のチャンスは十分にある。“石にかじりついてでも”というような覚悟を見せてほしいですね。
二宮 : 東京五輪に絡んでくるであろう他の外国勢は?
松田 : たくさんいますが、1人挙げるとすればアメリカのマイケル・フェルプス的な存在になるかもしれないケレブ・ドレセルですね。2年前の世界選手権では7冠。フェルプスはどちらかというと中距離を得意としていました。ドレセルはもうスプリントタイプ。100mで自由形もバタフライも速い。オリンピック6個の金メダルを含む12個のメダルを獲得したライアン・ロクテ(アメリカ)と同じチームで、フィジカルトレーニングをめちゃくちゃやっていてパワーが半端ないです。今回の世界選手権で金メダルを量産する可能性は十分にありますね。
試される平井コーチ
二宮 : 女子の日本勢はどうでしょう?
松田 : 今、メダルが期待できそうなのは個人メドレーの大橋悠依ですね。他に個人でメダルが獲れそうなのは、200m個人メドレーで代表権を獲得した大本里佳。彼女は今年が初めての世界選手権なんです。そこでどういう泳ぎをするかによって来年への期待値も上がりますね。仮にメダルは獲れなくても自己ベストを出したり、世界の舞台で自分の力を出し切れる選手だったら、さらにブレークするかもしれませんね。
二宮 : 個人種目の代表権を獲得したのは、2人のほかバタフライの長谷川涼香選手と、平泳ぎの青木玲緒樹選手でした。
松田 : 200mバタフライの長谷川は世界選手権で4、5位以内に入れれば来年が楽しみになります。身体が小さいのが不安材料です。その中でどこまで勝負できるか。200mバタフライは努力でこうパフォーマンスを上げられる種目なんです。200mバタフライと400m個人メドレー、1500m自由形は誰もがキツくてやりたくないと言います。人があまりやりたがらない点にチャンスがあります。青木はなかなか自分を上手くコントロールできていない印象があります。そこは平井伯昌先生の手腕が試されるところですね。
二宮 : 今回の世界選手権は出場できませんが、白血病で闘病中の池江選手は東京五輪に間に合うのでしょうか?
松田 : 僕はメダル獲得も十分にありえると思いますね。
二宮 : エッ! メダルですか?
松田 : 彼女は19歳。9月くらいから泳ぎ始められれば、一気に復活できる可能性があります。
二宮 : 東京五輪に出るためには、来年の日本選手権で派遣標準記録を突破して上位に入る必要があります。
松田 : その点も彼女なら大丈夫だと思います。病気を完全に治し、プールに戻ってきたとすれば伸び盛りの時期に変わりはない。だからマイナスからのスタートになったとしても、急激に状態が上がる可能性は秘めていますね。
二宮 : 『木挽BLUE』で舌も滑らかになり、美味しい焼肉に箸も話も止まりませんね。
松田 : そうですね。お酒も焼肉も美味しいので、ついつい話が弾みます。
二宮 : さすが九州出身、いけるクチですね。
松田 : いえいえ。『木挽BLUE』がスッキリしていて飲みやすいんですよ(笑)。つい口も滑らかになるいいお酒だと改めて感じました。
二宮 : まだまだ折り返し地点です。後編は松田さんの現役時代の話をうかがいたいと思います。
松田 : わかりました。では、まずおかわりをお願いします!
(後編につづく)
<松田丈志(まつだ・たけし)プロフィール>
1984年6月23日、宮崎県生まれ。4歳から水泳を始める。延岡学園高校を経て、中京大学に進学後、04年アテネ五輪に出場。400m自由形で8位入賞を果たした。08年北京五輪の200mバタフライで銅メダルを獲得。宮崎県民栄誉賞と延岡市民栄誉賞を受賞した。 12年ロンドン五輪ではキャプテンとしてチームを牽引し、200mバタフライで2大会連続銅メダルを手にした。400mメドレーリレーのメンバーとして日本競泳同種目初の銀メダル獲得に貢献。 16年リオデジャネイロ五輪では800mリレーで銅メダルを獲得した。同年、現役引退。オリンピックは4度、世界選手権は5度出場した。引退後は TVのコメンテーター、講演など幅広く活動中。
(構成・写真/杉浦泰介)
今回、松田さんと楽しんだお酒は芋焼酎「木挽BLUE(ブルー)」。宮崎の海 日向灘から採取した、雲海酒造独自の酵母【日向灘黒潮酵母】を使用し、宮崎・綾の日本有数の照葉樹林が生み出す清らかな水と南九州産の厳選された芋(黄金千貫)を原料に、綾蔵の熟練の蔵人達が丹精込めて造り上げました。芋焼酎なのにすっきりとしていて、ロックでも飲みやすい、爽やかな口当たりの本格芋焼酎です。
提供/雲海酒造株式会社
<対談協力>
ドロップキック
東京都新宿区荒木町3 第3ハルシオン1F
TEL:03-5368-8474
営業時間:月曜-金曜18時~翌6時、土曜18時~翌3時、日曜18時~24時
定休日: お盆、年末年始
☆プレゼント☆
松田丈志さんの直筆サイン色紙を「木挽BLUE」(900ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はこちらのメールフォームより、件名と本文の最初に「松田丈志さんのサイン希望」と明記の上、下記クイズの答え、郵便番号、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)を明記し、このコーナーの感想や取り上げて欲しいゲストをお書き添えの上、お送りください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は19年8月8日(木)。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
今回、松田さんと楽しんだお酒の名前は?
お酒は20歳になってから。
お酒は楽しく適量を。
飲酒運転は絶対にやめましょう。
妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。