(写真:トライアスロンのテストイベント。ランの距離は5キロ短縮)

 東京五輪まで1年を切り、会場では各競技のテストイベントが行われている。

 それに合わせるように、東京には暑さがやってきて各会場では、運営者も選手も、観客も対応に苦慮している。

 

 ボートやビーチバレーのテストイベントでは選手が熱中症になり、オープンウォータースイミングではスタート時間が急遽早められた。トライアスロンでも、スタート時間を変更したり、競技距離が変更されたりしている。インドア競技はともかく、アウトドアの競技ではこの暑さの中では競技の時間や内容などで調整するしかないのが現状で、各競技団体の苦悩が垣間見られる。

 

「この時期にやるなんて」という意見が良く聞かれるが、これは招致の条件として開催期間は決まっていたため、日本や東京が意見を言えるところではなかったというのが事実だ。巨額のお金が動く放送の関係上、この時期を指定してきたIOCの言われるままにしなければ、東京大会は誘致できなかっただろう。

 

 ただ、IOCもここまで暑さが厳しい状況になるとは想定外ではないか。

 近年の日本の温暖化(高温化?)は著しいものがあり、僕が生きている50年の間でも明らかに変化が感じられる。そして近年の五輪開催地はバルセロナ41度、アテネ38度、北京39度、ロンドン51度と比較的北に位置する都市が多かった。東京は35度。ここまで南なのは1996年のアトランタ(33度)以来ということになる。なので、IOCがここ20年の高温に、真正面から対応しなければならない初の体験となる。おそらく彼らも開催地決定の段階でここまでの状況は想定できなかったのではないだろうか。地球がここまで変化しているということをIOCが、そして五輪を通して世界が思い知る機会となってしまう。

 

 環境変化を知ってもらい、警鐘を鳴らす機会としてはいいのかもしれないが、問題は開催する我々だ。この暑さにどう立ち向かうのか。安全に運営することができるのか……。

 

 東京都も、舗装や街路樹、ミストシャワーなど様々な対応を検討し、テストイベントで実証実験を行っている。一つ一つは小さな効果でも、重ね合わせることで一定の効果はあるとは思う。しかしどれも対処療法であることは否定できない。

 

 タブーに踏み込む必要も

 

 ならば、やはり競技のやり方、時間など内容の変更を検討せざるを得ないと考える。

 暑さは変えられなくとも、競技を行う時間を変更することで、温度や日差しは変えられる。競技の内容の変化で、競技時間を短くするなど、タブーとされている部分も踏み込んでいく必要があるだろう。

 

(写真:大会はお台場海浜公園の特設コースで行われた)

 競技時間に関しては、マラソンなどでも前倒し案になりつつあるが、まだまだ十分ではなく、もっと思い切った前倒しをすべきではないか。

 そして競技内容の変更。この部分は競技の根幹にかかわるため、非常に難しい部分である。各国チームや選手からも不満が出ることは間違いない。しかし、この暑さの中で走る選手、運営者、さらに観客のことを考慮すると、そこまで踏み込まなければいけないのかもしれない。

 

 極論を言えば、選手は何とかなる、この暑さの中で戦うために準備してきているし、覚悟もできている。それがないような選手やチームなど、この舞台に臨むべきではない。しかし、観客はそうもいかない。暑さに慣れていないし、この暑さを知らない。情報が少ない。生活習慣、時差などで体調が不備など、危険な要素はいくつもある。駅からたくさん歩き、暑い中で待たされ、炎天下で競技を見る。危惧すべきはこちらであることは明白だ。

 

 外の競技はすべて日が出る前、もしくは日没後に行うなんていうのもありかもしれない。既成概念にとらわれない、この気候変動の時代にふさわしいビッグイベントの在り方を、競技団体と共に考えるときなのかもと思うのだ。

 

 そのくらいの危機感を持って2020を向かえるべきだし、その準備としてテストイベントを開催すべきだろう。

 

 大丈夫、今回はテストイベント。

 今回のトライアルの中で、これらの問題と面と向かって対応した競技は貴重な経験になることだろう。ぜひ今年の経験を活かし、東京から新しいスタイルを構築して欲しい。

 これはある意味、これからの時代に各競技が対応していくノウハウを積み上げていく。そう、大切なレガシーであると思うのだ。

 

 東京の、日本の力を見せるのはこれからだ。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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