たぬかな(本名:谷加奈)はプロ3年目を迎えている。“勝たなきゃいけない”と囚われ過ぎ、結果が残せなかった頃とは纏っている雰囲気が違う。それは何か吹っ切れたことで棘のようなものが取れたとも言えるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「ずっと“結果を出したい”“強いと思われたい”という気持ちが頭にありました。でも結果を残しても『毎回勝てるわけじゃない』『次は負ける』と言われる。一時の成績にこだわりすぎるよりも、後に残せるために何をすべきかを考えるようになったんです」

 

 葛藤し、考え抜いた先に辿り着いた境地がある。彼女は「自分にしかできないこと」を追い求めたのだ。

「3年目ぐらいに他の人にできることと、私にしかできないことを考えたんです。幸いなことに、私はメディアからの仕事もたくさんいただけています。大会にたくさん出て、結果を残すことも大事なことですが、それ以外にもできることはある。私はメディアの仕事も頑張りたいと思ったんです」

 

 彼女はeスポーツ専門サイトSHIBUYA GAMEのインタビューで、こう答えている。

<女性ゲーマーとしてお仕事をもらえているのは、きっと私の強みでもあります。強さに憧れている人が多いとは思いますが、大会で優勝ができなくてもメディア方面にも積極的に出て活躍する私を見て憧れてくれている人もいるわけです>(2019年6月26日掲載)

 

 こういった考えに辿り着いたのは周囲の理解も大きいのだろう。彼女はプロeスポーツチーム『CYCLOPS athlete gaming』の一員であると共に、レッドブル社の支援を受けるレッドブル・アスリートでもある。

「“勝てなかったらどうしよう”という不安もありました。レッドブルの方に相談した時、『君が挑戦する。頑張っている。そのことだけで応援する価値があるよ』と言っていただいたんです。それで気持ちが楽になりました」

 

 たぬかなは「自分にしかできないこと」を通じ、何を伝えたいのか。認知度が上がってきているとはいえ、eスポーツはまだまだこれからのスポーツだ。

「年配の方からのイメージはまだ良くないと思うんです。テレビなどに出ることによって、“そういうものもあるんやな”と、受け入れてもらえるようになったらいいなと考えています。もっとイメージを良くし、多くの人に夢を持たせられるようになればいいと」

 

 父親の影響で幼少期から親しんできたゲームの世界。今はプロ選手になり、職業となった。昔のように楽しむだけのものではなくなったかもしれない。

「障がいのある方もできますし、男女の性差も大きく関係しない。平等なところが魅力だと思います。例えばプロサッカープレーヤー、プロテニスプレーヤーと戦ったり、チームを組むなんてことはなかなか難しい。それがeスポーツであれば、トップ選手と同じ条件で戦うことができる。そういう気軽さもいいところなのかなと」

 

 ジェンダーレスの世界に

 

 たぬかなが変えたいのは業界のイメージだけではない。eスポーツの世界、そして格闘ゲームの世界は男子選手の比率が圧倒的に多い。この比率を少しでも変えたいと思っている。

「まだ格闘ゲームをやる女性は少ないですね。格闘ゲームはしんどいことのほうが多い。eスポーツは誰もができるものですが、まだその数は男性が圧倒的に占めています。だから私たち女性ゲーマーが活躍し、もっと女子が増えてジェンダーレスな世界になってほしい」

 

 18年3月、『獣道弐』でたぬかなは、女性ゲーマーゆうゆうと対戦した。ゆうゆうは、たぬかなの憧れの存在。結婚と出産を経て、現役復帰を果たしたばかりだった。2人が対戦した『獣道』はプロ格闘ゲーマーの第一人者ウメハラが主催する“決闘”イベントだ。もちろんゲームタイトルは『鉄拳』。使用キャラは共にシャオユウだが、攻撃型のたぬかなvs.守備型のゆうゆうという図式となり、戦いは熾烈を極めた。10戦先勝方式で行われ、9勝9敗で決着は19戦目に持ち越されたのだ。

 

 最終戦、たぬかなは2ラウンドを先取した。あと1ラウンドを取れば、勝利だ。しかし、ゆうゆうが猛追。あっという間に2ラウンドを取り返された。最終ラウンドは、ゆうゆうがリードする展開。たぬかなは反撃に転じが、最後はカウンターを食らい、万事休す。観戦した皆が息を飲むような戦いの軍配はゆうゆうに上がった。

 

 この戦いは鉄拳業界のみならず格闘ゲーム界でも話題を呼んだ名勝負となった。対戦後、ゆうゆうがプロになったことからも反響は大きかったと言えよう。「『女性ゲーマーの見方を改めた』と言われた戦いでした」と、たぬかな。だが彼女はこの一戦を「悔しくて忘れられない試合」に挙げた。

「ゆうゆうさんの現役時代、私は勝ったことが一度もなかった。私はファンで、神戸へ対戦を申し込んでいたほどです。その後、引退され、この試合が復帰戦だった。最後ギリギリのところで負けたのは本当に悔しかった。周りからも『素晴らしかった』と言ってくれたのですが、やっぱり悔しい」

 

 負けん気の強さが持ち味である。今も強くなることを諦めたわけではない。昨年から攻撃型のスタイルからモデルチェンジを図っている。「防御に特化して練習をしています」。その成果は徐々に現れてきている。「かなり戦いが安定してきました」。取りこぼしも少なくなったという。

 

 たぬかな曰く「経験が重要」というeスポーツ。現在26歳の彼女はどう未来図を描いているのか。

「今30代後半のトッププレイヤーは、実力一本でのし上がってきた人たちです。大会で結果を残し、スポンサーを獲得してきた。私は優勝ばかりしてきたわけじゃないんです。たまに大会で上位に入るほどの実力です。女性だから、若いからという理由で有名になれたのも分かっています。でも30代を超え、今と同じ立ち位置なのは嫌です。『プレイヤーとしてやっていく実力がなくなったなら辞める』とは前から言っています」

 実力がなくなったら辞める――。それが彼女の譲れない部分なのだろう。

 

 eスポーツを広めること、女性プレイヤーを増やすこと以外にも、たぬかなには野望がある。それは地元・徳島のeスポーツチームをつくることだ。

「徳島でゲームをやりたいと思う人が目指すチームになればいい。徳島には才能ある人がいても、県外に出て大会に出場するのも大変です。海外の大会なんてなおさらです。まずは徳島で強い人を探し集め、東京や大阪、海外に挑戦できる環境をつくりたい。私が関わるのは最初だけで、いずれは自立させたいと思っています」

 

 負けん気が強く、努力家ゲーマーが抱く野望をクリアすることは簡単でない。それでも彼女の気持ちをセーブすることはできないだろう。たぬかなの冒険は続く――。

 

(おわり)

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たぬかな プロフィール>

1992年11月21日、徳島県徳島市生まれ。本名は谷加奈。CYCLOPS athlete gaming所属、日本国内2人目の女性プロゲーマー。父親の影響で小さい頃からゲーム好き。高校時代から『鉄拳』をプレイし始める。建築、アパレル勤務を経て、16年11月、CYCLOPS athlete gamingに入団。17年5月、Combo Breaker 2017で3位入賞を果たした。MBS『YUBIWAZA』に準レギュラーとして出演中。鉄拳シリーズでの各タイトル段位はBR紅蓮/タッグ鬼神/7聖帝/FR煌帝。使用キャラクターはリン・シャオユウ。

 

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(文・写真/杉浦泰介)

 

 


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