セ・パ両リーグの順位も確定し、いよいよ11日にはクライマックスシリーズ(CS)が開幕する。そのCSで昨季、華々しく花道を飾った者がいる。阪神一筋で22年プレーし、昨季限りで引退した桧山進次郎だ。現役最後の打席、甲子園のスタンドに放った劇的な一発を桧山に振り返ってもらった。
二宮: 桧山さんは、昨年引退されましたが、ラストゲームはセ・リーグのクライマックスシリーズファーストステージでした。シーズン3位の広島と対戦し、0勝1敗で迎えた第2戦、9回2死一塁の場面で代打に送られ、ホームランを放ちました。
桧山: 打った僕自身が一番驚きました。たぶん22年間で一番いい打ち方をしましたね。

二宮: 打った相手は広島の守護神キャム・ミコライオ。150キロを超えるインローのストレートを見事にとらえました。
桧山: 普通ならファールになるようなコースでしたが、体がクルッと回って、うまく打てました。

二宮: 昨季、ミコライオとは、ペナントレースで2度対戦していましたが、ノーヒットでした。
桧山: 過去2打席、全く歯が立たずに三振していたんです。僕はデビュー戦も三振で始まっているので、CSでミコライオと対戦するとなった時、“プロ野球人生、三振で始まって三振で終わるのも、まぁいいかな”とも思ったんです。ただ自分個人だけで言えば、それで済みますが、僕がアウトになるとチームのシーズンが終わってしまうという場面だった。それはちょっと避けたいなと。それで“せめていい当たりを打とう”と、そんなことばかり考えて打席に立っていましたね。

二宮: 試合には負けてしまいましたが、最後に阪神ファンへのプレゼントになったのでは?
桧山: そうですね。本拠地のリーグ最終戦でも球場を1、2周させてもらったんですが、この時もファンに挨拶させてもらいました。チームメイトの西岡(剛)たちが、「最後なんで、もう一回ライトスタンドに挨拶しに行った方がいいんじゃないですか」と言ってくれたんです。球団の計らいもあって、勝ったカープの選手たちが挨拶を終えてからライトスタンドに向かいました。そこでお礼をしていたら、今度はカープ側の応援席の方からも、“桧山コール”が沸き起こった。あれは本当に有り難かったです。

二宮: 引退発表は9月でしたが、シーズン前から決めていたのですか?
桧山: いや、夏場ですね。今までは夏バテなんて感じたことがなかったんです。どちらかというと大好きな季節だった。それがある日、昼間の練習で、初めてペットボトルの水を持ってグラウンドに入ったんです。試合前の練習で外野の芝生あたりをいつも走るのですが、その時は水なしでは余りにもきつかった。そんなことは22年間で初めてだったんです。

二宮: そこで体力的な衰えを感じ、バットを置く決断に至ったと。
桧山: そうですね。それから夏バテを理由にシートノックなど練習メニューを免除していただいたりもしました。ケガや病気でもないのに、自分がいろいろと配慮をしてもらうようになり、そんな自分が許せなくなってきたんです。

二宮: 今季からは、解説者としてネット裏から野球を見ていますが、いかがでしょうか。
桧山: グラウンドやベンチから見るのとは、全然違いますね。ベンチにいると、自分とチームのことしか考えませんが、外からだと感情移入がない分、冷静に野球が見られています。相手はこういうふうに思っているだろうな”と、分かるのが非常に面白いと感じています。

二宮: 今後はどのような野球人生を歩んでいきたいですか?
桧山: 今は外から野球を見て、これまでとは違う野球にも触れてみたいなと。新しい発見もいっぱいあると思うんです。それをいかに自分のものにしていけるか。指導者になれるかどうかは、こればっかりは縁ですからね。でも、いつ声が掛かってもいいようにするためには、自分が準備をしておかないといけません。そのためにも野球の奥深さをきちんと勉強しておく必要がある。特に僕はタイガースでしかプレーしていないので、他の11球団の野球もいろいろと見て勉強していきたいと思っています。

<現在発売中の『第三文明』2014年11月号でも、桧山進次郎さんのインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>