秋風とともにプロ野球はポストシーズンゲームに向かいます。そんな中、シーズン終盤の9月14日と15日にオリックス対東北楽天(京セラドーム)のテレビ中継でゲスト解説を務めてきました。コラム第4回目は久しぶりに放送ブースから見た野球についてお話しましょう。おっと、京セラで撮った写真も含めて、お馴染みのツーショットはTwitter(@Yasutomo_76)にてお楽しみください。

 

 オリドラ1太田の将来性

 さて、この春にキャンプ中継の解説は経験しましたが、レギュラーシーズンの解説となるとかれこれ14年ぶりです。京セラドームの放送席はスタンドの上にあり、細かいプレーはモニターでの確認となりますが、守備のシフトは良く見えました。

 

 クライマックスシリーズ(CS)進出をかけ3位を争っていた楽天は、試合序盤からランナー二塁の場面で「1点もやらない」という外野前進守備を敷いていました。オリックスの先発が山岡泰輔、山本由伸となかなか点のとれないピッチャーということもあり、1点勝負、序盤から堅い野球でした。CS進出をかける楽天ベンチの必死さを感じたものです。

 

 一方のオリックスは、私が解説する前の試合までになんと9連敗……。一時はCS圏内も視野に入っていましたが、それも消滅。少々早めの消化試合でしたが、この試合、見どころがありました。ドラフト1位ルーキーの太田椋が一軍デビューを果たしたのです。

 

 天理高(奈良)出身の太田は、私の後輩にあたります。天理で高卒ドラフト1位というと投手では谷口功一(92年ドラフト1位・巨人-西武-近鉄)がいましたが、野手では太田が初じゃないですか。京セラに着いた途端、関係者が「康友さん、今日、太田デビューですよ!」と教えてくれましたが、何という偶然なのか、と驚きました。試合前のフリーバッティングではオリックスのバッティングピッチャーの父・太田暁さんが息子を相手に投げるという良いシーンも見られました。太田の中学生以来ということで、なんだか見ていてウルッとしましたね。

 

 太田はバッターボックスでの雰囲気など、私たちの新人時代と比べると堂々としたものでした。プロ初ヒットは出ませんでしたが(23日終了時点もノーヒット)、打撃に関しては心配していません。なによりも太田は守備がいいから、一軍で経験を積ませてもらえるでしょう。ショートとして三遊間の深い所のゴロを捕って一塁送球というシーンで見せた守備範囲の広さと肩の強さ。オーバースロー、サイドスローとどちらも安定したスローイングなど、光るものを持っています。京セラから帰って、その後、メットライフドームに行ったとき、埼玉西武・辻発彦監督に言いましたよ。

 

「今日、対戦するオリックスの新人・太田、守備がいいから見ておいてください」

 そしたら辻監督、「ドラフト前にビデオで見ていたよ。高校生なのにいい守備しているなあ、と。ウチも欲しかった選手だ」と。辻監督は現役時代、守備の名手として知られていました。その名人のお墨付きですから、これからオリックスの正遊撃手の座をつかんでほしいですね。

 

 思い出話をひとつすれば、私は入団3年目で1軍デビューしました。プロ何試合目だったか、甲子園の阪神戦で川藤幸三さんのゴロを見事にトンネルしたのを覚えています(笑)。

 

 それにしても、開幕前に優勝候補としてあげ、先月のコラムでも「CS進出の可能性も!」と期待していたオリックスでしたが上位進出はなりませんでした。要因は細かい部分での走塁意識の徹底不足もあると感じます。

 

 面白いデータがあります。オリックスの盗塁数は119盗塁(23日終了時点、以下同)でリーグ2位ですが、成功率が低い。リーグ1位の西武は133盗塁で成功率7割3分1厘、オリックスは6割6分9厘と成功率はリーグ4位まで落ちます。盗塁死というのは流れが向こうに行ってしまいます。

 

 リクエストで進化するプレー

 4月や5月、シーズン序盤なら「とにかく行け」で良いのですが、そこから修正していかないとダメ。実戦の中で投手の癖、カウントなど状況を判断して、それで良いスタートを切るようにしないとペナントを戦えません。巨人の増田大輝などはシーズン中盤以降は、良いスタートを切っていますよ。オリックスの野手陣にも実戦で盗塁に関する「勘」を磨いてほしいですね。

 

 私が見ていた試合で、こういうシーンがありました。オリックスの攻撃で一塁ランナーの盗塁が成功してノーアウト二塁。ここですかさずランナーは三盗を仕掛けました。この場合、バッターは見送るか空振りがセオリーです。それが打ちにいってセカンドフライでチャンスを潰していました。シーズン終盤でこういうミスをしているようでは上位進出は難しい。チームとして修正や反省がなされてないのかな、と感じたプレーでした。

 

 期待するが故にオリックスに関しては辛口になりますが、来季に向け、山岡の最高勝率、山本の最優秀防御率のタイトルはマストです。2人ともシーズン最終登板を残している状況ですが、タイトルはほぼ手中にしたも同然でしょう。なぜタイトルにこだわるか? タイトルホルダーがいるといないとでは、来季、キャンプインの注目度が全然違います。タイトルホルダーがいればマスコミも「オリは投手王国!」と書きやすい。注目されてこそのプロ野球、来季こそオリックスの奮起に期待したいところです。

 

 盗塁といえば、リクエスト制度の導入で内野手のタッチや走者の走塁にも変化が見られました。私が解説した試合でも何度も二盗のリクエストがあり、判定が覆えることもありました。野手はこれまで「ここにランナーの足が来るだろう」と予測してタッチすれば良かったのが、微妙なタイミングのプレーはどんどんリクエストされるようになると、「来るだろう」とのタッチではアウトにできません。これからは野手の立ち位置を一塁側にズラすなどの進化が必要になるかもしれません。走者側はスライディングの速さがより求められるでしょうね。ベースの端に引っ掛けるようなフックスライディングではなく、正面からスパーンッとより速くベースに到達する。そうしたスキルアップもこれから必要になります。

 

 さて、最後にセ・リーグは5年ぶりに巨人がリーグ優勝を果たしました。原辰徳監督、おめでとうございます! CSファイナルステージの対戦相手はまだわかりませんが、横浜DeNAが相手となった場合、CS突破に向け、巨人は主軸ネフタリ・ソトをどう抑えるかがポイントです。

 

 2試合4被弾という屈辱もありましたが、見ていると巨人の投手陣が彼のインコースを攻めきれていない。昔、西武の清原和博が「こっちもバンバンやられるんやから」と言ったことがあります。清原やオレステス・デストラーデら西武の主軸は厳しくインコースを攻められているのに、西武投手陣がライバルチームの主軸に甘い攻めでいいようにやられていては、投手と野手の信頼関係も揺らぐ。清原はそれを心配したわけです。

 

 別にぶつけろと言うわけではなく、インコースの足元に厳しいボールを投げて、足を動かすというのも策のひとつです。そうやってストライクゾーンを狂わせるなど攻めにも工夫が必要です。原監督にひと言送るとすれば、「天敵ソトは、外だけじゃ抑えられない!」です……って、最後はダジャレかい(笑)。では、CSの熱戦については来月のこのコラムにて。

 

<鈴木康友(すずき・やすとも)プロフィール>
1959年7月6日、奈良県出身。天理高では大型ショートとして鳴らし甲子園に4度出場。早稲田大学への進学が内定していたが、77年秋のドラフトで巨人が5位指名。長嶋茂雄監督(当時)が直接、説得に乗り出し、その熱意に打たれてプロ入りを決意。5年目の82年から一軍に定着し、内野のユーティリティプレーヤーとして活躍。その後、西武、中日に移籍し、90年シーズン途中に再び西武へ。92年に現役引退。その後、西武、巨人、オリックスのコーチに就任。05年より茨城ゴールデンゴールズでコーチ、07年、BCリーグ・富山の初代監督を務めた。10年~11年は埼玉西武、12年~13年は東北楽天、14年~16年は福岡ソフトバンクでコーチ。17年、四国アイランドリーグplus徳島の野手コーチを務め、独立リーグ日本一に輝いた。同年夏、血液の難病・骨髄異形成症候群と診断され、徳島を退団後に治療に専念。臍帯血移植などを受け、経過も良好。18年秋に医師から仕事の再開を許可された。18年10月から立教新座高(埼玉)の野球部臨時コーチを務める。NPBでは選手、コーチとしてリーグ優勝14回、日本一に7度輝いている。この6月からTwitter(@Yasutomo_76)も開始した。


◎バックナンバーはこちらから