監督は大きく2つのタイプに分けられる。育成型と勝負師型だ。前者の典型が大毎、阪急、近鉄と3球団でリーグ優勝を果たした西本幸雄(故人)だ。厳しい指導で無名の選手を育て上げた。

 

 しかし、日本一は一度もない。生前、本人から、こんな話を聞いたことがある。

「阪急時代、ワシが育てたヤンチャな坊主たちが天下のON(王貞治と長嶋茂雄)擁する巨人と日本一を争っている。ワシはそれを見るだけで涙が出てきた。日本一になりたいという欲望より、うれしい思いの方が強かったかもしれんね」

 

 前者が西本なら後者はV9巨人を率いた川上哲治か。西本阪急とは5回戦い、全て巨人に軍配が上がった。

 

 川上は勝つことに、どこまでも貪欲だった。メディアとの不要な接触を避けるため、キャンプ地に“鉄のカーテン”を引いた話は、あまりにも有名である。

 

 そんな川上野球を、西本は「内務班的な野球」と皮肉っていた。内務班とは、<旧日本陸軍の兵営で、平時、兵が起居した組織単位>(ブリタニカ国際大百科事典)である。軍人教育をきびしく植えつける機関として知られた。「そこまでして勝ちたいのか」という思いが西本にはあったのかもしれない。

 

 前置きが長くなった。リーグ3連覇を達成した緒方孝市が今季、Bクラスに転落した責任をとり、ユニホームを脱ぐことが決まった。後任候補として名前が浮上しているのが野村謙二郎である。

 

 野村は監督時代、リーグ3連覇の原動力となったタナキクマル(田中広輔、菊池涼介、丸佳浩)に積極的にチャンスを与えるなど、若手指導に定評がある。タイプでいえば育成型だ。

 

 FAや大物外国人に頼らない野球を身上とするカープの生命線は若手の発掘と育成である。野村再登板の可能性は、そうした文脈で語られるべきであり、必然性の高い人事と考えられる。

 

(このコーナーは二宮清純が第1週木曜、書籍編集者・上田哲之さんが第2週木曜、フリーライター西本恵さんが第3週木曜を担当します)


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