16日、世界陸上競技選手権(8月、北京)の国内代表選考会を兼ねた「第6回横浜国際女子マラソン」が神奈川・山下公園を発着点に行われ、田中智美(第一生命)が2時間26分57秒で優勝した。日本人として3年ぶりの制覇。初マラソンの19歳・岩出玲亜(ノーリツ)は2時間27分21秒で20歳未満の日本最高記録をマークし、3位に入った。
(写真:フィレス<右>との最後の直線勝負を制した田中)
 最後の横浜国際で、ニューヒロインが誕生した。2度目のマラソンとなった26歳の田中、10代でマラソンデビューを果たした岩出と、2人の若手が1位と3位に入った。

 スタート地点の気温は14度、秋晴れの空がランナーたちを温かく迎えた。序盤の5キロは16分56秒のペース。先頭集団は7人で形成された。6キロ過ぎで、ペースメーカーの後ろに野尻あずさ(ヒラツカ・リース)、岩出がつけ、少し離れてフィレス・オンゴリ(ケニア)。第2集団はティキ・ゲラナ(エチオピア)、田中、藤田真弓(十八銀行)というかたちになった。

 10キロの通過は野尻と岩出が依然として第1グループを形成していた。5キロのペースは16分34秒と、入りの5キロよりも少しペースを上げた。すると第2集団から藤田が離され、キャロライン・ロティチ(ケニア)、フィレス、田中と3人になった。15キロは16分57秒とややペースダウン。第2集団との差が徐々に縮まっていくと、17キロ手前でロティチが先頭に立つ。17キロ過ぎでフィレス、田中も先頭集団に追いついた。

 20キロでペースメーカーがレースから離脱すると、田中、フィレス、岩出、ロティチ、野尻の順で通過した。中間点は1時間11分56秒で通過。ほぼ横一列のかたちで5人が並走していく。22キロ過ぎに野尻が遅れ、集団は4人となった。
(写真:アフリカ勢にしっかりとついていった田中<手前>と岩出<奥>)

 初マラソンの岩出は、30キロ過ぎても先頭集団に残っていた。「人のリズムを借りながら走った」と積極的に前についていった。練習でも30キロ走が最高で、ここからは彼女にとっては未知の領域である。「ガクッとはこなかった」と振り返ったが、フルマラソンの過酷さは、37キロあたりでやってきた。「体力的には大丈夫だったのですが、足にきた」と徐々に遅れはじめ、先頭から離されていった。

 三つ巴となったレースは40キロ過ぎで、一時は先頭を走っていたロティチが一気にペースダウン。その間に田中とフィレスが抜け出し、優勝争いは2人に絞られた。田中とフィレスのデッドヒートは、山下公園に入った最後の直線までもつれた。一度はフィレスに前へ出られたが、田中は「周りの声援がすごかった。(大会の)最後は日本人が獲ってやるんだ」と闘志を燃やし、抜き返した。

 わずか2秒差の接戦を制した田中が、誰よりも速くゴールテープを切った。2時間26分57秒と自己ベストには1分近く及ばなかったものの、2度目のマラソンで初めての優勝を果たした。前身の東京国際女子マラソンの最後は、第一生命の先輩である尾崎好美が制した。「最後は自分で締めたかった」と、今回で幕を閉じる横浜国際の最後の女王として、その名を刻んだ。一時は調整がうまくいかず、欠場も考えた田中だったが、今大会唯一のナショナルチームメンバーとして、きっちりと結果を残した。

 一方、終盤で先頭集団から離された岩出は「(2時間)28分を切りたい思って、(前を走る)時計車だけを見て走りました」と目標を切り替えていた。優勝争いから落ちてきたロティチが視界に入ると、「“もしかしたらメダル”と欲が出た」と気持ちを奮い立たせた。最後の直線を前にロティチをかわした岩出は3位でゴールイン。2時間27分21秒のタイムは20歳未満の日本最高記録(2時間29分12秒)を更新した。入社2年目、来月に20歳になる新鋭は、初マラソンとは思えないほどの堂々とした走りを見せた。

 レースを総括した日本陸上競技連盟の尾縣貢専務理事は「2人にはリオデジャネイロ、東京が視界に入ったと自覚し、精進してもらいたい」と五輪への期待を寄せた。尾崎、木崎良子などが、この横浜国際から世界へと飛び出していった。横浜から世界へ――。大会は一旦、幕を閉じるが、その系譜は田中と岩出が引き継ぐ。

 上位の成績は以下の通り。

1位 田中智美(第一生命) 2時間26分57秒
2位 フィレス・オンゴリ(ケニア) 2時間26分59秒
3位 岩出玲亜(ノーリツ) 2時間27分21秒
4位 キャロライン・ロティチ(ケニア) 2時間27分32秒
5位 野尻あずさ(ヒラツカ・リース) 2時間28分54秒
6位 ティキ・ゲラナ(エチオピア) 2時間29分13秒
7位 アリーナ・プロコベワ(ロシア) 2時間29分18秒
8位 オレーナ・シュクルノ(ウクライナ) 2時間29分26秒
9位 藤田真弓(十八銀行) 2時間34分13秒
10位 ジビレ・バルシュナイテ(リトアニア) 2時間35分36秒
(写真:初マラソンの感想を「楽しかった」と語った岩出)

(文・写真/杉浦泰介)