2014年の日本スポーツ界のMVPを決めるとすれば、錦織圭で間違いないだろう。全米オープンでアジア人初の決勝進出。また11月には同じくアジア人として初めてツアーファイナルにも出場した。錦織の躍進を支えたのが、コーチのマイケル・チャンだ。錦織に攻撃的なスタイルを植え付けるとともに、どんな強豪にも臆さないようにとメンタル面を強化した。錦織はチャンの指導を受けてどう変わったのか。ナショナルチーム男子ヘッドコーチとして錦織のサポートにも当たっている増田健太郎に、二宮清純が聞いた。
二宮: 全米オープン準優勝の後は、マレーシア・オープン、楽天ジャパン・オープンで立て続けに優勝。錦織選手の大活躍には日本中が沸きました。
増田: 圭自身、楽天ジャパン・オープンの時は、準々決勝から決勝までの3試合の記憶がないと言っていました。「どうやって勝ったか覚えていません」と。無我夢中の状態でプレッシャーを切り抜け、勝利したということでしょう。

二宮: 躍進にはマイケル・チャンがコーチに就任したことが大きかったとみられています。
増田: 非常に大きいと思いますね。トップの選手になると、なかなか厳しい指摘をされることはありません。しかし、レジェンドであるチャンはビシッと言いにくいところも選手に伝えているようです。たとえば、圭が全豪オープン前に焼き肉を食べに行った時とか。

二宮: コートではなく、焼き肉店ですか?
増田: はい。まだチャンは圭のコーチに就任して間がなかったんですが、「試合前にとる食事ではない」と一喝したそうです。それを聞いた時、“へえ、そんなことも言ってくれるんだ”と驚きました。

二宮: そうした厳しい指摘が錦織選手のメンタル面での成長につながったわけですね。
増田: 以前であれば、ケガで気持ちが下がるような傾向がありましたが、今は気持ちがすごく強くなりました。またチャンは圭とすごくストイックな付き合いをしていると思いますね。

二宮: と言いますと?
増田: チャンは選手とほとんど一緒に行動していないんです。帰りの移動も別々ですし、一緒にいるのはコート上のみという感じです。非常にシビアですよ。選手と必要以上に馴れ合わず、プロフェッショナルに徹していると思いますね。

<現在発売中の『第三文明』2015年1月号でも、増田健太郎さんのインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>