(写真:宙に舞う岩渕監督。就任3年目で2度目の日本一)

 第52回日本女子ソフトボールリーグ1部決勝トーナメント最終日が17日、神奈川・横浜スタジアムで行われた。決勝はビックカメラ高崎BEE QUEENがHonda Revertaを1-0で破り、2年ぶりの優勝を果たした。これにより今季のリーグ戦最終順位が確定。ビックカメラ高崎、Hondaに続き、トヨタ自動車レッドテリアーズが3位、豊田自動織機シャイニングベガが4位。決勝トーナメントの優秀選手賞は2戦4安打の長谷川優理(Honda)が、MVPには1日2完投の上野由岐子(ビックカメラ高崎)が選ばれた。

 

◇決勝

 上野、271球の熱投。2試合投げ切る(横浜)

ビックカメラ高崎BEE QUEEN 1 =0000010

Honda Reverta        0 =0000000

勝利投手 上野(2勝0敗)

敗戦投手 フォード(1勝1敗)

 

 

(写真:負けられない戦いで貫禄のピッチングを見せたエースの上野)

 ビックカメラ高崎が王座奪還を果たした。

 
 リーグ戦1位のビックカメラ高崎は前日の決勝トーナメント初戦、Hondaに競り負けた。日本リーグはページシステムを採用しているため、チャンスは残されていた。まずは午前中に行われたトヨタ自動車との3位決定戦を制した。Hondaへの挑戦権を得るため、先発マウンドにエース上野が上がった。上野はほぼ毎回ランナーを出す苦しいピッチングも、要所を抑えた。143球を1人で投げ抜く完投勝利。打線はトヨタ自動車のモニカ・アボットに対し、2発5得点を挙げた。
 
 試合終了から約1時間後の決勝。マウンドには変わらず上野が立ち続けた。打線はトヨタ自動車戦でサウスポーのアボットに対し、1番から6番まで右打者を並べたが、Hondaには前日3投手の継投で1得点に抑えられていた。1番にアボットからホームランを打った市口侑果を据えるなど、打順を組み替えて臨んだ。
 

(写真:初の決勝進出を果たしたHondaに多くの声援が届けられた)

 1番・市口はシーズン中にもない起用法だったという。これには岩渕有美監督は「賭けだった」と明かす。
「相手はどのピッチャーを使ってくるか分からなかった。昨日は(第1試合で)3人のピッチャーを並べられて負けていました。相手というよりは自分たちの調子で決めた。特に市口が当たっていたので思い切って1番にしました」
 
 Hondaの先発マウンドは今季最多勝のジェリソン・フォードが立った。緩急織り交ぜたピッチングで12勝を挙げ、防御率1.04と抜群の安定感を誇ったサウスポーだ。ケガの後遺症も癒え、在籍3年目で大幅に成績を上げていた。
 

(写真:Hondaは積極的に振っていったが、12三振を喫した)

 両エースの競演となった試合は1点を争う展開となった。連投の上野は「疲労感はあった」というものの、毎回三振を奪う貫禄のピッチング。「自分のリズムを崩さぬよう1球1球積み重ねっていった」。強打のHondaをゼロに抑えた。バッテリーを組む我妻悠香は「丁寧に投げられた結果」と振り返った。
 
 均衡を破ったのは6回だった。先頭の市口がピッチャーエラーで出塁。続く森さやかがヒットで繋いだ。1死後、打席には4番の山本優が入った。日本リーグ通算最多本塁打記録を持つスラッガー。「後半だったので仕掛ける場面」。3球目を叩き付け、セカンドに転がした。市口の好スタートもあり、ホームのクロスプレーでセーフ。フィルダーズチョイスでついにスコアが動いた。
 

(写真:優勝が決まった瞬間、マウンドを中心に歓喜の花が咲いた)

 上野には、わずか1点の援護で十分だった。その裏を三者凡退で切って取り、最終回も当然マウンドへ。振り逃げでランナーは出したが、ホームは踏ませなかった。最後のバッターを三振に仕留めると、マウンドの上野を中心に歓喜の輪が咲いた。
 
 今季は4月に上野がケガをし、前半戦を棒に振った。投手陣は濱村ひかり、中野花菜、勝股美咲の3人で凌いだ。「3人が踏ん張り、成長した。(リーグ戦の)22試合ひとつひとつが成長だった」と岩渕監督。キャプテンの我妻は「1人1人が責任を持って戦えた」と胸を張った。
 
 ビックカメラに移管してから2年ぶり3度目の優勝を果たした。来季はビックカメラとなって初の連覇を目指す。

 

◇3位決定戦

 エース攻略され、連覇ならず(横浜)

ビックカメラ高崎BEE QUEEN  5 =0012002

トヨタ自動車レッドテリアーズ 1 =0001000

勝利投手 上野(1勝0敗)

敗戦投手 アボット(1勝1敗)

本塁打 (ビ)市口1号ソロ、我妻1号2ラン

※ページシステムのためビックカメラ高崎が決勝に進出

 

(写真:前日は完封。連日の完投で疲労の色は隠せなかったアボット)

 リーグ戦3位の豊田自動織機を下し、連覇に望みを繋いだトヨタ自動車だったが、この日の3位決定戦はエースと共に力尽きた。
 
 東京オリンピックの決勝会場・横浜スタジアムでの日米エース対決となった。アボットは「ビックカメラが対策を練ってきた。彼女たちはベストを尽くした。自分は本来の仕事ができなかった」と5失点で敗戦投手となり、肩を落とした。
 
 中西あかね監督が「あと1本が出なかった」と言うように、7回以外は毎回出塁したが上野を打ち崩すことはできなかった。1回から4回、6回は得点圏にランナーを置きながら、タイムリーは長﨑望未の1本のみだった。
 
 7回にはエラー絡みで2失点。最終スコア1-5で敗れた。3位に終わったシーズンを中西監督は「苦しい1年。選手たちは最後の最後まで諦めず戦ってくれたので感謝している。来年に繋がる部分もあった」と前を向いた。
 

(写真:Hondaはピンチの場面でも笑顔を絶やさず、自分たちのソフトボールを貫いた)

 強豪が苦しんだ今季、大躍進を遂げたのがHondaである。昨季10位から8つ順位を上げた。2度目の決勝トーナメントで初白星を挙げ、過去最高成績を収めた。「ソフトボールを楽しむ」をテーマに最後まで笑顔を貫いた。
 
 鈴木幸司監督は「来年は来年の風が吹く。冬はしっかりトレーニングし、春に備えたい」と語った。来季は3月末に開幕。東京オリンピックシーズンに行われる。
 
(文・写真/杉浦泰介)