日本サッカー協会(JFA)は10日から12日までの3日間、東京・ビックサイトで「第9回フットボールカンファレンス」を開催した。フットボールカンファレンスは2年に1度開かれるJFAの有指導者資格者向けの講習会。今回は世界の指導者や有識者が集まり、「本気で日常を変えよう」をテーマに「2014FIFAワールドカップブラジル テクニカルスタディ」をもとにした講演やトークショーなどが行われた。
(写真:2つに分けられた会場に連日約1000人の受講者が詰めかけた)
 メンタルの“インテンシティー”

 カンファレンス初日はブラジルW杯の分析をFIFAテクニカルスタディーグループ(TSG)のヘッドを務めるジェラール・ウリエ氏、JFAのTSG木村浩吉氏が発表し、大会を振り返った。その後、「日本代表の準備と戦い」というテーマで前日本代表監督アルベルト・ザッケローニ氏の約1時間に渡るインタビュー映像が流れた。ザッケローニ氏は今大会の日本の敗因に「メンタル面」を挙げた。

 審判の目からも日本と世界との差は見受けられたという。2日目の「技術と審判の協調」をテーマにしたディスカッションにはW杯でレフェリーを務めた西村雄一氏が参加した。西村氏は「世界のプレーヤーは笛を期待してプレーをしない。倒れないし、あるいは倒れてもすぐに立ち上がるんです。それはフィジカルよりもメンタルなんです。笛が鳴らない方が数的優位を作れるなら、それで行ってしまう。気持ちが体と伴うと、(簡単に倒れない)プレーにつながる」と語った。

 こうしたメンタルの弱さは、残念ながら育成年代にも継承されている。「日本の将来に向けて」をテーマに育成年代の指導者が登壇したが、U-17日本代表の監督などを務めた吉武博文氏は「技術的には伸びてきているが、自立度はどんどん下がっている」と嘆く。横浜F・マリノスユースの松橋力蔵コーチは「“絶対に負けないんだ”という気持ちが表面的に見えない子が増えてきた印象があります」という。四日市中央工業高に教師として勤めている樋口士郎監督は「我慢すること、注意されることの経験が不足している。何でも与えられる環境。親離れ子離れしていない状況のまま、サッカーのテクニックがうまくなっている。何がいいことで、何が悪いことなのか、大事なことに気付かされていない」と問題点を指摘する。
(写真:「日本の将来に向けて」というテーマで登壇した吉武前U-16代表監督<左>と鈴木前U-19代表監督)

 フランス代表や欧州の強豪クラブを率いた経験を持つウリエ氏は「メンタルの強さは、絶対に諦めないこと。勝つというメンタリティーが必要である」と語った。日本が世界と比較される時、フィジカルの差ばかりに焦点が向けられる。パワーで劣る分、スピードやテクニックで勝負する。個々では敵わないが、組織力で対抗する。短所を長所で補うという姿勢は、どこか諦めのようにも見えなくはない。まずは“絶対に勝つ”という気概。つまりメンタルの“インテンシティー(強度)”を上げるべきなのかもしれない。

 すべては勝つための準備

 W杯王者のドイツは、勝つために万全の準備をした。ブラジルW杯に向けて、ドイツサッカー連盟(DFB)は総工費3500万レアル(約17億円)をかけて、ブラジル北東部バイア州の島に自前でキャンプ地を作った。DFBのインストラクターを務めるラルス・イゼケ氏によれば、フェリーでしか行き来できないリゾート地である。雑音を極力シャットアウトできる環境にあり、最寄りの空港までは約35分。グループリーグの3戦、決勝トーナメント1回戦でのポルト・アレグレ以外は、飛行機で約2時間の距離だったという。イゼケ氏は「どこに行くのも便がいい場所を選んだ。準決勝、決勝まで視野に入れた上で、移動のしやすいところと考えたわけです」と語った。「ムダな労力を省いた」と選手のストレスをできるだけ軽減するように努めたのである。

 自家製の“選手村”にはマンションのようなコテージを建て、4つのグループに分けた。その中にはチーム最年長のミロスラフ・クローゼと最年少のマリオ・ゲッツェら齢の離れたベテランと若手の組み合わせもあれば、ライバル関係にあるボルシア・ドルトムントとシャルケ04に所属する選手たちを混在させることもあった。イゼケ氏はその意図を「仲良くさせたい選手を一緒に置いた」と明かした。今大会のドイツは、個人技よりも組織力が武器のチームだった。出場チーム中2位の1試合平均120.9kmを走ったデータからも分かるように、1人1人が労を惜しまず、ハードワークしたことで栄冠につながった。さらに途中出場した選手の活躍も目立つなど、総合力の高さも際立った。チームワークが醸成された背景には、こうしたDFBの配慮が生きた結果とも言える。

 ドイツの根底にあるのは、「勝利」への強い思いだ。U-20代表のコーチも務めるイゼケ氏は「それで十分」と語り、「勝つことは私たちのDNAだと思います。選手が新しく代表チームに入ってくる時、勝つことに対して言う必要はありません。勝たない、勝てないということは可能性として有り得ない」という。では目先の勝利だけを追いかけているのかと言われれば、そうではない。なぜならばドイツには世代交代に失敗した過去の教訓がある。98年フランスW杯でベスト8止まり、00年欧州選手権(EURO)ではグループリーグで敗退した。それを受け、育成システムを強化。その結果がブラジルW杯の成功につながったと言われている。今回、代表の事前合宿にはU-20代表を派遣し、練習試合の相手を務めさせた。U-20の選手たちには「代表がU-20にプレッシャーをかけるのではなく、U-20が代表にプレッシャーにかけるんだ」との気概を持たせることで、大会への準備は、その先の未来への準備にもつながるはずだ。
(写真:「変えなければ世界に追いつけない」と警笛を鳴らしたJFAの山口技術委員長)

 歴史と実力に大きな差があろうとも、勝ちに行く姿勢は見習うことはできる。カンファレンス最終日にはJFAの山口隆文技術委員長(育成担当)が集まった指導者たちに「本気で日常を変えよう」と熱弁を振るった。活躍が期待されたブラジルW杯で、日本はグループリーグで1勝もできずに敗退した。惨敗という結果は、変われるチャンスと捉えることもできる。すべては勝つために――。その努力は決して怠ってはいけない。

(文・写真/杉浦泰介)