(写真:田中は「登ってみたかった」と勝利のパフォーマンス)

 31日、ボクシングの世界戦が東京・大田区総合体育館で行われた。WBO世界フライ級タイトルマッチは王者の田中恒成(畑中)が同級10位のウラン・トロハツ(中国)を3ラウンド2分29秒KOで下し、3度目の防衛に成功。WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチは王者の井岡一翔(Reason大貴)が同級1位のジェイビエール・シントロン(プエルトリコ)を判定で破り、初防衛に成功した。

 

 田中は5年ぶりに上がった東京のリングで自らの強さを証明した。主戦場とする中京圏の会場でなくとも関東圏の応援団から“恒成コール”が聞こえてきた。「声援もあって気持ちが良かった」と振り返った。

 

 序盤は様子を見るようにジャブで距離を掴んだ田中は、3ラウンドで仕掛けた。セコンドからは「山場をつくれ」と指示を受けていた。

「ちょっと早いんじゃないかと思いましたが、様子を見る時間は必要ないと感じていた。相手が出てくる前に行こうかと考えていました」

 

(写真:アッパー3連発で相手をリングに沈めた)

 圧力をかけ、ロープ際に追い込むと、最後はガードの間を射抜く左アッパーでトドメを刺した。本人も「地に足着けて打てた」という手応え。崩れ落ちた挑戦者はレフェリーが10カウントを数える間に立ち上がることはできなかった。

 

 世界戦9度目にして最速のKO勝ちだ。「1ラウンド目から試合を支配できたことが早い段階でKOに繋がったと思います」と分析。ボディを効かせ、フィニッシュブローに導いた。

 

 畑中清嗣会長も「今までの世界戦の中では一番」と称える内容を見せた。前回のV2戦は減量に失敗し、体調を崩した。ダウンを喫するなど冷や冷やで掴んだ防衛だった。

 

(写真:ジャブでペースを掴み、主導権を握った)

 その反省を生かし、苦手なロードワークをいつも以上に距離を延ばして励んだ。「自覚。もうそろそろオレも一皮剥けたい。減量が最大の邪魔をしていた」。コンディション良く試合に臨めたことが快勝の要因だ。

 

 畑中会長も成長を認める。

「コンディションづくりで今回が一番良かったのは、自己管理ができていたということ。毎日、自分に克つことだね」

 

 この1年は3試合をこなした。

「試合に向け、3回自分を見詰め直し、追い込む。それでレベルアップができました。反省する機会もたくさんあり、充実した1年だった」

 2020年に向けて弾みをつけ、4階級制覇への道も拓いた。

 

 畑中会長は「来年のことは来年に」と明言こそ避けたが、20年内にスーパーフライ級への階級変更を示唆した。「マッチメイクのことはわからない」と田中。「どんなかたちであっても一皮剥けた田中恒成になりたい。変化は起こしたいですね」と意気込んだ。

 

(写真:判定が発表され、勝利を喜ぶ井岡陣営)

 今年4階級制覇を果たした井岡は、掴んだベルトを守ってみせた。

 

 対戦相手のシントロンはアマチュア時代にロンドン、リオデジャネイロオリンピックを経験している。プロ転向後も無敗を誇るサウスポーだ。挑戦者はリーチの長さを生かし、距離を取りながら試合を進めた。

 

(写真:パンチをかわすなど守備技術も披露)

 序盤は井岡がペースを掴めなかった。ジャッジペーパーを見ると4ラウンドまでは2人のジャッジがシントロンを支持。1人は38-38の同点だった。

 

「4ラウンドまでは相手が元気なのはわかっていました。想像以上にスピードは速かったし、距離も長く、強かった。気持ちを切らすことなくセコンドの指示に従いながら準備をしてきたことを実行できた」

 その後、井岡は前に出続けた。フェイントを交え、相手に圧力をかける。徐々にボディや連打が当たりはじめ、試合を支配していく。次第に挑戦者はクリンチなど消極的な姿勢が目立った。

 

(写真:華やかではなかったが、勝利への執念を見せた)

 泥臭くも前に出続けた井岡。少し離れたところから飛んでくる相手のパンチを被弾しても怯まなかった。12ラウンド、どちらにもダウンがないまま、試合終了のゴングを聞いた。

 

 両者が拳を挙げ、優勢をアピールしたが、勝者は一目瞭然だった。3-0でチャンピオンの防衛。井岡は父親となってからの初戦を白星で飾った。

「勝ったことで次に繋がった。2019年の最後に勝利できたことで2020年を迎えられたなと思います」

 

(文・写真/杉浦泰介)